香りの世界に誘われ、グラースへ

日本の四季や自然からインスピレーションを受けて生まれた「miyashinma」の香水。香りだけでなく、ボトルデザインや原料でも「日本」にこだわっている。日本では伊勢丹オンラインストアなどで販売。ミヤシンマ パルファン 全9種 55ml 各¥18,000/フォルテ 0422-22-7331
日本の四季や自然からインスピレーションを受けて生まれた「miyashinma」の香水。香りだけでなく、ボトルデザインや原料でも「日本」にこだわっている。日本では伊勢丹オンラインストアなどで販売。ミヤシンマ パルファン 全9種 55ml 各¥18,000/フォルテ 0422-22-7331

 学生時代からアートに興味があり、何かを表現したいと常に思っていましたが、大学卒業後は静岡で事務員の仕事をしていました。毎日、朝9時から夕方5時まで同じ事の繰り返しです。そんなある日、いつもの通勤で通る地下道に、ホームレスの方が寝ているのが目にとまりました。その方の頭上のトンネルのわずかな隙間から、光が差し込んでいる。次の日にそこを通ると、今度は布団から起き上がっている。その次の日には、起きて帽子をかぶっている。そのまた次の日には、起きて帽子をかぶって、絵を描いている。そこでハッとしました――そうだ、同じ毎日を繰り返すのではなく、本当にやりたい事をしよう――。

 そして、偶然手にした雑誌にあった調香師のインタビューの「調香師とは、オーケストラの指揮者のようなもの」という一文を目にして、“これだ!”と感じたのです。すぐに地元の図書館に行って、関係書籍を片っ端から読んだのですが、やはり本場で学びたいという気持ちが高まり、フランスのグラースへ向かいました。

 でも現地に着いて、調香学校に見学の問い合わせをしたところ、あっさり断られてしまい、失意のままパリに移るも、何もチャンスをつかめず、一旦帰国しました。そして次にイタリアのフィレンツェを訪れたとき、ホテルの方の紹介で、地元の調香師の方が目の前で香りを創ってくださったんです。彼が「もうすぐ自分の調香学校を立ち上げる」というので、帰国後熱烈なラブレターを送ったところ、イタリア人らしく3カ月後にお返事をいただいて(笑)。その手紙には「まだ学校ができてないから、自分の先生を紹介します」とありました。その先生とは、フランスのヴェルサイユ大学付属の調香学校で教鞭をとる大変エレガントな女性で、私が初の日本人生徒ということで、とても優遇してくださいました。27歳のときです。