炎上に関与する人々の心理
例えば芸能人の不倫報道炎上や、CM炎上のたびに、現象分析としてその「たたいている犯人像」探しが行われることがあります。
よくいわれるのは、低所得で非正規労働のネットユーザーだとか、とにかくモテなくて欲求不満の男女だとか、髪を振り乱して日々の暮らしに鬱憤を抱えている主婦だとか、いや実はアラフォー・アラフィフのうだつの上がらないサラリーマンですよ、いやいや、最近はリタイアしたシニアも暇だわ世間に相手にされないわでネットに参戦するようになりましたよ、なんて話。
そういう「自由度が低くて、鬱屈した人々が、ストレス解消にたたいているんですよ」と、まるで「自分以外の誰か」がヘドロのようなどぎつい悪意をむき出しにして世間を呪い、そういう薄汚いことをしているんだよね~やぁね~と言わんばかりの戯画化した分析が行われるのですが、ちょっと待って。
そんな目に見えるように分かりやすい「犯人」ばかりが(イメージは名探偵コナンの黒い犯人)、日本にはそんなに大量にいるのでしょうか。 一人一人が、本当にそんなどぎついヘドロのような悪意を黒く醸し出して生きているのでしょうか。
そんな危ない人、そんなに大量に見たことありますか? ホント?
なぜ、私たちは自分が「炎上現象」の小さな1ピースではないと確信できるのでしょう。
「あれってさ~、○○だよね」と悪意なんか自覚もせずちょっと苦言を呈したくらいの自分の日常の発言が、それがついにじんだSNSでのつぶやきが、同意が、誰かのスキャンダルを取り上げて論じるテレビ番組を見ることで視聴率にカウントされること自体が、その1クリックをすることでPVを上げてしまうネットサーフィンが、結果的に吸い上げられて炎上を形作っているのです。
炎上の正体は、「私たちの隠せない関心と、ごくごく小さく薄く漠然とした不快感」が大量に引き寄せられ、強烈に濃縮され、破壊力を持つ別の生き物になった姿です。
だから今、日本って超絶息苦しくないですか? でもこれは「他の誰か」じゃなくて「私たち」の社会なんですよね。
不倫や炎上からの再生の鍵は、「たたく人々のたたきたい気持ちをそぐこと」だと言いました。次に私たちが考えなければいけないのは、自分の中にどうしようもなく飼っていて時折ぬっと顔を出す「たたきたい気持ち」について、かもしれません。
文/河崎 環 写真/PIXTA