「史実」そのままでは違和感や疑問が生まれる時代

 林真理子さんでさえそこまでの脚色や読み替えはしなかったところに、ベテラン脚本家・中園ミホさんによってあえての大胆な脚色が施されたのはなぜか。

 それは、日本のかつての歴史を史実に忠実に語ったときに、現代の多様性の中で育ち生きる視聴者の感覚からは違和感が生まれ、もう今の社会から共感を得ることができないからだと思うのです。なぜって、やっぱりサムライの封建社会は「特殊事情」であり、私たち日本人はそれに疑問を持ち新しい社会制度で何度も上書きして、ここまでやってきたからです。

 身分や性別によって人生が定められ、教育もなく理不尽の中でただひたすら労働して、飢えたりひどい殺され方をして人生を終えていく、多くの人々。その上に立脚する豊かな身分の者たちが繰り広げる切った張ったの栄枯盛衰。「西郷どん」さえ140年前、戦国時代に至っては今から何百年も前。そんな時代の出来事をエンタメとして成立させるためには大胆な読み替えや言い換えがなければ受け入れられにくくなるほどに、私たちの感覚は遠いところまできた、価値観が進化したとも言えるかもしれません。

今の価値観はここまで変わったということを感じさせる大河ドラマの存在(C)PIXTA
今の価値観はここまで変わったということを感じさせる大河ドラマの存在(C)PIXTA

 それは、昨年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」や、少し前の2011年の大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」でも感じたことでした。直虎に関しては歴史的資料がなさ過ぎ、空想であるがゆえに可能だったとさえ思うような設定。戦国の世に女性が武家の当主となって戦うというストーリーは、ドラマ「JIN-仁-」や「ごちそうさん」を手掛けた脚本家・森下佳子さんの「もしこうだったなら世界は面白いのに」という、パラレル世界のファンタジー。結果、エンターテインメントとして非常に優れ、若い世代に大人気を博しました。

 また、「江~姫たちの戦国~」も「篤姫」を成功させたベテラン女性脚本家・田渕久美子さんによる、大胆な新解釈満載で視聴者に多くの気付きを与える江戸の女性史でした。そういえば「定年女子」(参考:「私たちはいつか『定年女子』になる 働き女子の終着点」)も田渕さんの脚本でしたね。

 史実に忠実であることが好きな人にとっては、目をむくような内容。でもNHK大河ドラマはもともと「ゴージャスなエンターテインメント」であることを目指す、国民的イベントです。そこに女性脚本家たちが続々と起用されて「史実をもっと面白く上書きしていく」。西郷隆盛が女装したって、BLだったって、それで後世の人々が彼への興味関心を深めてより多くを知ろうとするきっかけになるのなら、ありではないでしょうか。

 さて私は、家族との話題に後れを取らぬようにというのは表向きの理由で、中園ミホさんがアグレッシブに繰り出す大胆解釈と、鈴木亮平さんの卓越した演技力、何よりも本音は鍛え抜かれた美ボディーを毎週めでていきたいと思います!

新しい視点で描かれた「西郷どん」 これからの展開も楽しみ 画像/NHK提供
新しい視点で描かれた「西郷どん」 これからの展開も楽しみ 画像/NHK提供

【参考】
■NHK大河ドラマ「西郷どん」
日曜(総合)午後8時
  (BSプレミアム)午後6時
土曜 再放送(総合)午後1時5分
「西郷どん」公式サイト

文/河崎 環 写真/PIXTA、NHK提供