高橋さんの遺族側代理人を務め、88年より「過労死110番」の活動に参加し、現在、過労死弁護団全国連絡会幹事長を務める弁護士の川人博さんはこう語ります。

 「最近の傾向として20代、30代の若い人の自殺が増えています。また、『過労死110番』に電話する女性のうつ病などの精神疾患や過労自殺の相談が年々増加傾向にあり、特に、大学を卒業して約半年以内に病気になり、死亡に至るケースが増えています」

 男女雇用機会均等法が施行されて2016年で30年。90年代には労働時間規制撤廃で男性並みに長時間働く女性たちが増えました。2000年になり、女性たちが職場で重要な役割を果たすようになってもそれは変わりません。日本の企業はそもそも、「男は仕事、女は家庭」の性別役割分業をもとに、自宅に専業主婦がいて、奥さんに家事・育児・介護など私的領域のことを任せて、時間の制限・制約なく働くことのできる壮年の男性を基準として、仕事が組み立てられています。

 そのように男並みに働く女性しか認められてこなかったのです。しかし、家事や育児もこなしながら(まさに「ワンオペ」で)、しかも女性が活躍するというのはスーパーウーマンでもない限りできるはずがありません。

 さらに女性の場合、パワハラ、セクハラも加わります(高橋さんも上司から、ハラスメントを受けていました)。「膨大な業務量、長時間労働や休日出勤という過重労働による肉体的な負荷、そしてパワハラ、セクハラという精神的な負荷があります。過労自殺の場合は精神的負荷の比重が大きい」と川人弁護士。

 「今、職場に若手を育成する余裕がありません。新人にも即戦力として重い役割を与え、過度の負担を課すという傾向にあります。そこから過労・ストレスによるうつ病などが引き金になって自殺へとつながっています。このような不適切な労務管理も問題です」

今、職場に若手を育成する余裕がありません(C)PIXTA
今、職場に若手を育成する余裕がありません(C)PIXTA

 「一方、『自殺するくらいなら会社を辞めればよかったのでは』との声も散見されますが、うつ病になると合理的な判断は難しくなります。また、日本では会社を辞めると落伍者のレッテルが張られ、失業者に対する社会の評価が厳しく冷たい。北欧のように失業者に対するセーフティネットも充実していません。このような流動性の低い労働市場や社会保障制度も、問題があってもなかなか会社を辞められない要因になっています」