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男社会の建設業界 女性の感性を生かして活躍するには(4/4)

2017年9月21日

人材不足なんのその! 地方の女性の力を最大限に生かす建設会社

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「ビジョンを描く力」が社員の能力と意欲を引き出す

――女性社員の育成に力を入れていると伺っています。1人あたり年間40万円の研修費をかけているそうですね。

籠田:最初の頃は「忙しくて時間がない」などといって、こちらの働きかけに乗ってきませんでした。

 もともと私は何でもできる人間を作ろうとしていたんですね。でもある時、社員から「私は代表のようにはなれません。代表といると、できない自分をすごく感じます」と言われてしまった。私はその社員のことをすごく優秀だと思っていたので、意外だったし、ショックでした。

 考え方が変わったのは2009年、それまで私の子育てやプライベートなことをフォローしてくれていた母が病気になり、あらゆることが行き詰まってしまった時です。それまではフルタイムで仕事に全力投球してきましたが、仕事と母の看病で睡眠もとれない日々が続き、初めて夫にも弱みを見せました。自分が「敗北」を受け入れたことで、みんなやりたくてもできないいろんな事情があると、身をもってわかりました。

 母は3カ月ほどで亡くなったのですが、その3回忌のときに、今度は夫が末期がんに倒れました。夫は庭師で、太陽とともに仕事をして日が沈んだらおしまいの人。子守が上手で、主夫としてずっと私を支えてくれていました。そんな夫がもう治療ができない状態だという。このときばかりは会社が赤字になってもいいから夫と息子と3人の時間を作りたいと思いました。でも会社は持ちこたえた。私がほとんど病院につきっきりになっていた時も、社員ができそうにないことをやり遂げて守ってくれました。

 それからは、社員の給料を2倍、3倍にする目標を描いて、社員の年収が300万円以上になるまでは、人財育成や働き方の仕組みを作り続けようと心に決めたんです。

 最初は100万円を超えないようにしか働かないと言っていたパート採用の女性一級建築士も、5年後には正社員になり、この目標を達成しました。現在、社員の給与は皆300万円以上になりました。今後も給料を2倍、3倍にする目標を描いています。

母そして夫が亡くなったことから仕事に対する考え方が変わったと籠田さん。「社員の給料を2倍、3倍にする目標を描いて、人財育成や働き方の仕組みを整えました」。実際パート社員から正社員となり収入が3倍になった女性も

――人財育成の方法としては、具体的にどんなことをしているのでしょうか。

籠田:オリジナルの社員手帳を開発しました。きっかけは十数年前、初めて雇用した社員が、私が話すことを全部書き留めて、行き帰りのバスの中で読み返していたんですね。ある日そのメモの束が机の上に置いてあるのを見て、時間的に制約の多い女性でも自宅で学べるようにできたらと、手帳化することにしました。

 内容は、代表である私の方針や仕事の取り組み方、アイデアの発想方法、現場での職人への指示の出し方など多岐にわたっています。それぞれの「10年ビジョン」を書き込む欄もあって、毎年新年の会議で全員が共有しています。自分でどんどん書き込めるようなつくりになっているのも特徴で、経営方針も社員が各自で考えるようになっているんです。

10年ビジョンが書き込めるオリジナルの手帳「ゼムケン手帳」を開発。社員の夢を描く力を育成している

――男性はキャリアを考える上で「10年後はどうなりたいか?」と上司に聞かれることはありますが、女性はほとんどないのが実情です。これはすごい手帳ですね。

籠田:社員とは毎月面談をしているのですが、以前「私は夫が健康で出世したらそれでいい。自分の夢は特にありません」と言った女性がいて、衝撃を受けました。

 そういう女性に「あなた自身が夢を持っていいのよ。私たちは自由なのよ」と伝えると、表情を一変させます。涙ぐむ人もいるし、顔をぱっと紅潮させる人もいる。そういうケースを何人も見てきました。

 私はビジョンを持てるようにしてあげることが大切だと思っています。「好きこそものの上手なれ」の言葉通りで、自分の好きなことだったらどんどん上達してく。ただ、本人のビジョンが会社の理念と合っていなければ辞めていくと思うので、まずは経営者が「こうありたい、未来をこうしたい」ということをきちんと言葉で表現していくことが必要です。

 最近は彼女たちの10年ビジョンがより大きなものに変わってきていて、「夢を描く力」が育ってきていると感じています。11年前にパートで入社し、その後正社員になって収入が3倍になった女性もおり、目標も達成できつつあります。

本社のボードには毎日社員へのメッセージを書く。インターンシップで女性にもっと活躍の機会を

――街づくりのイベントも積極的に行っていますね。

籠田:私は、建築はまちづくりでもあると思っています。小倉駅近くの商店街「魚町銀天街」の魅力を再発見する「魚町の女神たち構想」では、地域の女性4人にマーケッターとなってもらい、彼女たちの声をもとに車椅子での買い物を体験するイベントなどを開催。「誰からも愛されるまち、魚町銀天街」というブランドアイデンティティが誕生しました。また、私の地元である片野地区では、高齢化が進む自治会と若い世代や飲食店経営者との交流を促し、一緒に地域を活性化していく「片野まちづくり講座」も行っています。

 こうした活動は社員に積極的に任せ、いずれは別会社の事業として渡せればと考えています。社員全員の「のれんづくり」と言っています。

まちづくりにも積極的。(左)小倉駅近くの商店街「魚町銀天街」では車椅子での買い物を体験するイベントを開催。(右)「女性力学び場 地域力みんなの幸せ」と題したイベント。「僕がわたしが市長になったら」をテーマに若い世代がプレゼン

――建設業は圧倒的に男性社会ですが、その中で女性が活躍するには何が必要でしょうか。

籠田:建設の現場に女性の視点を取り入れることが戦略として有効だと思います。私たちは「五感設計」や、4象限マトリクスを用いて課題をコンサルティングしていく「ダイバーシティ設計」といった手法で、建設業界の活性化を行ってきました。いずれはこれを理論化して、再現性のあるものにしたいと考えています。

 また、建設業にインターンシップを取り入れたいと考えています。「けんちくけんせつ女学校」と名付けて、2017年11月に始める予定です。

 東京で働いていた女性が結婚などで北九州に戻ってきた時に、建設業で働くことを怖いと思ってしまうんですね。そこで、まずはeラーニングで現場の実習が見えるような勉強をした後に、インターンシップを2カ所くらい経験してもらい、相性が合えばそこに勤めてもらう。そういった仕組みがあれば、もっと活躍の機会が広がるのではないでしょうか。これについては大学院でも論文を執筆中で、女性の一級建築士が建設業を離れる原因を研究しています。

――行政に対して望むことはありますか。

籠田:2014年の総務省労働力調査に基づく国土交通省の発表によると、建設業就労者505万人のうち、女性技術者は1万人、女性技能者は9万人です。一級建築士の女性合格率が年々増加し、建築に対する女性の関心が高まる一方で、女性技術者・技能者は1997年の26万人をピークに減少し続けて歯止めがきかない状態です。

 国交省でも5年で女性技術者・技能者を5倍に増やす計画を打ち出していますが、現状では建設業に就職した女性がどのようなプロセスを経て働き続けているのか、あるいは辞めているのかは把握されていません。有効な施策を打ち出すためにも、職場や家庭の環境も含めた、正確な現状把握をしてもらいたいと思っています。

――今後の目標を教えてください。

籠田:いま力を入れているのは、職務をさらに細分化することと、社員に仕事の全体を知ってもらうことです。お客さまと出会って店づくりの第一歩がスタートしてから完成後に物件を引き渡し、お店がオープンした後に建物のメンテナンスをするところまでが私たちの仕事。その中で一番得意なのは何かを知り、どこができるようになりたいのかをマネジメントするのが私の役割だと思っています。

 地方では人材不足と言われていますが、それぞれの個性を生かす方法やワークシェアリング、ワークライフバランスなど、会社のほうが仕組みさえ変えれば活躍できる人材はもっといるはずです。経営者として自分がどんな人材を求めているのかを明らかにしたうえで、これからも仕事や未来に対するワクワク感を表現していきたいと思っています。

<インタビューを終えて>
 地方の人手不足は深刻であると言われます。それに対して「そんなことはありません。環境が整っていないだけ。働ける仕組みをつくったら違うはずです」と籠田さんはきっぱりと否定しました。その言葉どおり、いち早くワークシェアリングを導入。子育て等で時間制約のある女性でも活躍できるような仕組みを作りました。そして、その育成ぶりもすごい。「あなた自身が夢を持っていい」「私たちは自由なのよ」と女性社員に熱心に伝えることで、女性たちが知らず知らずのうちにふたをしていた自分の可能性をも気づかせるこの手腕。働き方を変えただでなく働きがいも創出するリーダーであることを実感しました。

インタビュアー/麓幸子=日経BP総研マーケティング戦略研究所長・執行役員 取材・文/谷口絵美 撮影/大槻純一
(2017年7月12日にサイト「新・公民連携最前線 」のコラム「麓幸子の『地方を変える女性に会いに行く!』」に掲載された記事を元に転載しています)

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Profile
麓幸子
麓 幸子(ふもと・さちこ)
日経BP総研マーケティング戦略研究所長
日経BP社執行役員。1984年筑波大学卒業。同年日経BP入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。16年日経BPヒット総合研究所長を経て現職。法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府研究企画委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書に『女性活躍の教科書』『就活生の親が今、知っておくべきこと』など多数
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