5月20日に開催された、働く女性のためのイベント「WOMAN EXPO TOKYO 2016」のプレイベント、ダイバーシティマネジメントセミナー。「企業を強くする女性活躍推進」をテーマに、基調講演には、中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授の佐藤博樹氏が登壇。「女性の活躍の場の拡大と働き方改革」と題して女性活躍拡大とダイバーシティ経営に関して語った。(2016年6月29日に「日経BPネット」 コラム「麓幸子の「ダイバーシティ&働き方改革最前線」に掲載された記事を転載しています)

管理職の意識改革が必要な時代に

 「ダイバーシティ経営を推進するには、女性活躍が欠かせません。これからの時代は、男女共に働き方改革が重要なのです」と佐藤教授は口火を切った。ダイバーシティ、女性活躍という言葉からは女性のみがターゲットと思われがちだが、佐藤教授は、そうではなく、男性も女性も共に対象となり、さらには働き方を改革することがダイバーシティ推進に強く寄与するとする。

 分かりやすい例を示そう。たとえば、ある新規事業のプロジェクトメンバーに、キャリアや能力から5人の候補者が挙がったとする。しかし、そのうちの3人を子細に調べていると、Aさんはアメリカ人で、日本の大学院を卒業し海外での勤務経験はあるが、日本企業で働いた経験がなく、日本の仕事の仕方を十分に理解していないため、一緒に働きにくいとの同僚の評価がある。Bさんは親が在宅介護のため従来のようには残業ができず、月に1回は半休を取り、ケアマネージャーと打ち合わせが必要だった。Cさんは育児休業から復帰したばかりで時短勤務中である。

基調講演に登壇した佐藤博樹教授
基調講演に登壇した佐藤博樹教授
一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。83年法政大学大原社会問題研究所助教授、87年法政大学経営学部助教授、91年同大学経営学部教授、96年東京大学社会科学研究所教授。2014年より現職。著書に『人材活用進化論 』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著、日経文庫)、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題:人材多様化時代における企業の対応』(共編著、東京大学出版会)、『介護離職から社員を守る』(共著、労働調査会)など。内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、厚生労働省・イクメン・プロジェクト顧問、経済産業省・新ダイバーシティ経営企業100選運営委員長などを兼任

 3人は、いずれもキャリアや能力からみてそのプロジェクトに適任でも、同社における従来の望ましい「社員像」から外れるため、プロジェクトメンバーに選ばれない可能性が高い。しかし、従来の望ましい「人材像」を維持し続けると、社内の有能な人材の能力を活用できず、さらに彼らは仕事への意欲を低下させることにもなろう。

 「日本人で、フルタイム勤務でいつでも残業ができる社員を望ましい人材だと考えていたら、多くの社員の能力を活用できずに、成果を出せなくなります。企業がこれまで望ましいと考えてきた人材像を変えることが、働き方改革を進めることになるのです」と佐藤教授は説く。