「肉を切らせて骨を断つ」ということわざがあります。しかし、何かを犠牲にしたところで、逆にもっと多くのものを失うこともあります。映画「世界から猫が消えたなら」が教えてくれることは、自分を作っているのはすべてのものだということ。取るに足らないと思っていることですら、今の自分を形成している大切なものだということです。

猫だけど、名前はキャベツです (C) 2016映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会
猫だけど、名前はキャベツです (C) 2016映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

この世から一つ消すとしたら、何を消す?

 映画館の座席は前方が好みの映画ライター・ゆうせいです。本日は、SFファンタジー要素がたっぷりと含まれた、せつなくて愛にあふれるラブストーリー映画「世界から猫が消えたなら」をご紹介したいと思います。

 突然ですが、「何か一つをこの世から消す代わりに、あなたの余命が1日伸びる」と言われたらどうしますか?

 大半の方が「どんどん消してくれ」と頼むことだと思います。もちろん私もそうです。嫌いな食べ物とか、ゴキブリとかいろいろ。消したいものだらけと言っても過言ではありません。

 でも、何か一つがなくなるだけでも、それに関連するすべてに影響が出ることになり、結果として大きな変化が起きてしまうことがあります。自分が自分じゃなくなってしまうほどの……。

【ストーリー】
大切なものを一つ消すことと引き換えに、1日の命をもらえるとしたら?
主人公は30歳の郵便配達員。愛猫キャベツとふたり暮らし。ある日突然、余命わずかの宣告を受けてしまいます。ショックで呆然とする彼の前に、突然、自分と同じ姿をした悪魔が現れて言いました。「世界から何か一つ、ものを消すことで、1日の命をあげよう」……。
悪魔のささやきに乗せられた主人公は、次々とものを消していきます。ところが、何かを消すと、大切な人たちとの思い出も一緒に消えてしまうことになり……。これは余命わずかの彼に起こった、せつなくもやさしい「愛」の物語です。

不必要なものが必要なものに影響を与えている事実

悪魔の上から目線がまさに悪魔的 (C) 2016映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会
悪魔の上から目線がまさに悪魔的 (C) 2016映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

 消えていいと思えるものは「あってもなくてもどっちでもいいもの」と「ない方がいいもの」の2種類に分けられると思います。しかし、このどちらもが、「その他の圧倒的に必要なもの」に影響を与えていることを忘れてはいけません。

 私はしいたけが苦手なので、例えば、しいたけを消してしまったとします。一見すると、もうこれで餃子の中身にしいたけが入っている心配はなくなる! どんなお店でも安心して注文できる! と思えます。

 しかし、しいたけが消えるということは、これまでの人生で語ってきた「嫌いな食べ物トーク」の記憶を含め、それにまつわるすべてが消えます。存在しなかったことになるのです。しいたけ嫌いがきっかけで仲良くなれた友達のことも。