おばあちゃんになってもお金の不安は尽きない

 今年のお正月休みのこと。レストランで食事をしていると、隣に10人ほどで食事をしているグループがいました。80代くらいの老夫婦に、60代くらいの夫婦、子供を連れた30代くらいの夫婦と、独身と思われる30歳くらいの女性が円卓を囲んでいました。会話の様子から、おじいちゃんおばあちゃんを囲む親族の集まりのようでした。

 わいわいとはしゃぐ2,3歳の子どもたちに目を細めながら、大人たちは久々に集まったことを喜び、会話に花を咲かせていました。お酒も入ってしだいに大きくなる声のせいか、聞くともなく話の内容が聞こえてきました。

 すると、60代くらいの夫婦が、30代の夫婦に「その後、家は決まりそう?」と聞きました。息子と思われる30代夫婦の夫は「いや、良いところはたくさんあるんだけど、どこも高くて。これから子どもにお金がかかることを考えるとあまり無理もできないし、なかなか決まらないんだよね」と答えました。

 よくあるパターンだな、と思っていると、今度は親世代である60代夫婦の妻が言いました。「住宅ローンは無理しない方がいいわね。うちは子どもも独立したし住宅ローンももうすぐ完済だし、もうお金の心配はないと思っていたのに、お父さんが60代になってお給料は半分くらいになっちゃって大変よ。なのに年金はほとんどもらえないし……。」と、かなり不満な様子です。確かに、これから年金暮らしを迎える世代も、お金の不安は避けて通れません。

 やがて、「今、年金もらっている人はたくさんもらえていいよね」と、話は80代夫婦に向けられました。すると、おばあちゃんが言うのです。「そうは言っても、ぜいたくはできないわよ。今は暮らせているけれど、100歳まで生きたらもうお金が足りなくなるもの。」と。年金だけでは生活費は足りず、貯蓄を取り崩しているため、長生きをすると底をついてしまうようです。総務省の家計調査でも、年金世代の家計は毎月約6万円の赤字という数字が出ていますが、実際に年金暮らしをしているおばあちゃん世代は、リアルにお金の不安に直面しているわけです。

 そんな様子を眺めている30歳くらいの(推定)独身女性はというと、黙って皆の話に聞き入っています。その面持は神妙で、他人事とは思えない様子です。あるいは、同世代の多くの女性が感じるように、もしこの先一人で暮らしていったら、親や祖父母とは違ったお金の苦労をするのではないかとの不安もよぎったかもしれません。いずれにしても、楽観的ではなさそうでした。

 新年を祝って集う老若男女にも、それぞれにお金の不安があるのだなと、しみじみ感じました。この連載のお金のプロが教える、意外な「本当に必要な貯金額」でも「いくら貯めても不安がゼロになることはない」とお話しましたが、お金の不安は「いつになってもゼロになることはない」とも言えるのです。さらにいえば、その後、上述の一家の小さな子どもが「ガチャガチャ買ってよ!」と駄々をこね始めたのですが、まさに私たちは年齢にかかわらず、生きている限りお金の問題と向き合い続けるのかもしれません。