『美少女戦士セーラームーン』を観て育った子どもたちも、もうアラサー世代。『セーラームーン』は社会現象になっただけでなく、現在のアラサー女子の仕事観や恋愛観に大きな影響を与えています。そんなセーラームーン世代について、『セーラームーン世代の社会論』の著者である稲田豊史さんが、作品を紐解きながら鋭く分析していきます。最終回である今回は、セーラームーン世代がいかに進歩的な思想の持ち主であるかについて、考えてみましょう。

セクシャル・マイノリティを丁寧に描いていた

 92年から97年までマンガ連載・TV放映された『美少女戦士セーラームーン』は、セクシャリティ(性的指向)の表現に関して、特筆すべき先進性を持っていました。LGBT(*)という言葉が日本ではほとんど知られていなかった90年代、当時としてはありえないくらいの公平さで、セクシャル・マイノリティ(性的少数派)のパーソナリティを丁寧に描いていたのです。

*LGBT…女性同性愛者(レズビアン/Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ/Gay)、両性愛者(バイセクシュアル/Bisexual)、性転換者・異性装同性愛者(トランスジェンダー/Transgender)といった人々の総称。一般的に、性的嗜好の面で少数派の人たちのことを指す。

 例えば、92〜93年放送の『美少女戦士セーラームーン』に登場した敵組織「ダーク・キングダム」四天王であるゾイサイトとクンツァイトは、相思相愛の恋仲にありました。しかしこの同性愛は、作中で一切茶化されたり、異端視されたりはしなかったのです。最終的にゾイサイトはボスのクイン・ベリルに処刑されてしまいますが、最愛のクンツァイトの腕の中で「私は綺麗に死にたい」と願い、クンツァイトは願いを叶えます。美しく悲しい、誠実な恋愛物語でした。

 また、95~96年放送の『セーラームーンSuperS』に登場した敵チーム「アマゾン・トリオ」のひとり、フィッシュ・アイも、女装癖のある男性の同性愛者でした。彼はうさぎの恋人・地場衛(=タキシード仮面)に恋心を抱き、うさぎと恋敵の関係になりますが、自分が人間ではないことを知って落ち込んでいるフィッシュ・アイを、うさぎは優しく慰めます。性別を越えて展開する「反目していた“女の子”同士が心を通わせ合う」ドラマは、非常に感動的でした。

 そして、敵チームだけではなく、セーラー戦士同士の関係も先進的だったのです。