広報のキャリアを重ねて、経営者に。そんな実例も増えています。社会や顧客からの要請を理解しながら情報を発信する広報の役どころは、「会社の顔」である経営者に重なる部分も。不動産コンサルティング会社、さくら事務所社長の大西倫加さん、緩衝材「プチプチ」のメーカー、川上産業常務の杉山彩香さんに「広報から経営者」物語を聞きました。

さくら事務所代表取締役社長 大西倫加さん(左)、川上産業常務取締役 杉山彩香さん(右)
さくら事務所代表取締役社長 大西倫加さん(左)、川上産業常務取締役 杉山彩香さん(右)

「新サービスで社会が変わります」広く伝えようと奮闘

 不動産コンサルティング会社、さくら事務所(東京都渋谷区)の大西倫加社長。当初は外部の広報・マーケティングコンサルタントとして、クライアントであるさくら事務所の広報業務を2002年から担当しました。

 さくら事務所は1999年に設立され、個人を対象に住宅購入時のアドバイスや不動産評価などの事業を手掛ける会社。中でも、業界の草分けとして早くから手掛けているのが「ホームインスペクション(住宅診断)」。中古住宅の売買の際に、専門知識を持つホームインスペクター(住宅診断士)が住宅の劣化状況や欠陥の有無、改修が必要な箇所や費用などについて、第三者の立場から助言をするサービスです。中古住宅の取引が多い欧米では一般的に利用されていますが、新築住宅の取引比率が大きかった日本では、当時ほとんど知られていませんでした。

 社外コンサルタントとして同社に関わった大西さんは「創業者(現会長の長嶋修氏)の理念と情熱に共鳴し、広く知られてほしいという思いで広報のお手伝いをしていました」

株式会社さくら事務所代表取締役社長 大西倫加さん 大学卒業後、広告業に従事。広報・マーケティングのコンサルタントとして2002年からさくら事務所の広報PRを手掛ける。2011年にさくら事務所の取締役に就任、2013年に社長に就任
株式会社さくら事務所代表取締役社長 大西倫加さん 大学卒業後、広告業に従事。広報・マーケティングのコンサルタントとして2002年からさくら事務所の広報PRを手掛ける。2011年にさくら事務所の取締役に就任、2013年に社長に就任

 大西さんはまず、業界紙などのメディアや業界関係者に1日100件、電話をかけ続けました。「我々のことを知っていただき、どんなお手伝いができるかをお話しする機会が欲しいと。でも9割以上はけんもほろろに断られました」。話を聞いてもらえても、当時はまだ新築住宅が大量に建築され続けていて「中古のストック住宅が流通して第三者の診断が必要になるなんて、どこの国の話?」と半信半疑の相手が多かったといいます。

 それでも半年くらいたつと、話の内容に興味を持ち、取材してみようというメディアが出てき始め、記事が掲載されると別のメディアからまた取材が入るという連鎖が生まれました。

 そこで次に「我々は住宅関係の多様なライセンスを持つ専門家集団で、一般のお客様が住宅を購入する際や購入後の困り事のアドバイスができます」とアピール。これも共感を呼び、定期的にメディアに取り上げられるようになりました。