10年後のなりたい自分を想像する
退社後は、司法試験合格を目指して、1日16時間ひたすら勉強だけをしていたという菊間さん。この生活を送るために退社を選んだため、まったく苦ではなかったと語ります。
「結局、自分のための自分だけの目標を自分で立てれば、誰に何と言われようと、また誰に褒められなくても不安になったりしないものです。上司や親、友達、世間が言うから……という理由で立てた目標は、どこかでストレスが溜まってきてしまいます。自分らしい目標を立てられるかが、キャリアプランを考えるうえでとても大事なんです」(菊間さん)
菊間さんは、自分らしさを知り、自分らしい目標を立て、目標達成のための行動を徹底して洗い出しました。目標を達成するために有用かもしれないと紹介したのは花巻東高校の「目標達成用紙」。怪物投手と言われた大谷翔平選手を育てた佐々木洋監督が選手に書かせていたもので、ビジネスにも日常生活にも応用できると、一時話題になりました。
「まず、10年後のなりたい自分をできるだけ具体的に想像します。次に、そのためには5年後にどうなっているべきか、さらにそのために2年後、1年後、半年、来月、来週、今、と引き直して、どうやって目標を達成するかの戦略を立てるんです」と菊間さん。
目標達成用紙(縦9マス×横9マス=合計81マス)の中央の9マス(縦3マス×横3マス)の中心マスに、10年後の大目標を書きます。次に中心マスの周囲の8マスに、その大目標を達成するために必要な中目標を書き込みます。さらに8個の中目標を達成するために必要な小目標を8個ずつ記載します。
「こうしていくと、果てしなく高い目標のように思えてもそこに向かって、今この瞬間から実行できることがあるということに気付くはずです。あとは、それを着実に実行するだけ。人生のキャリアプランはもちろん、ダイエットを成功させたいなど、身近な目標にも使えます」(菊間さん)
実際に菊間さんが作成した目標達成用紙を見ると、「耳栓」「引っ越し」「食事1時間」「1秒を大切に」と、生活習慣レベルの具体的な項目が並び、ストイックに勉強に集中していた様子が浮かびます。
「だって落ちたら無職ですから(笑)。必死になったら何でもできます。32歳のとき、ただなりたいなーと思っているだけだったらきっと弁護士になることはできなかったでしょう。32歳の時点で目標を具体的に定め、『6時に起きる』といったすぐにできることを一歩一歩進めていった結果が今につながっているんですよね」(菊間さん)
「将来の自分に向き合って」
最後に来場者に向けて、菊間さんはメッセージを贈りました。
「日々忙しいとは思いますが、忙しいだけで終わっていくのはもったいないので、毎日寝る前の15分、30分を自分へのご褒美タイムとして、将来の自分、10年後の自分と向き合う時間にしてみてはどうでしょうか。つらいことに直面したときも、ただ耐え忍ぶのではなく、この状況をどんな風に何をして乗り越えようかと、『壁を越える過程』そのものを自分で考え、楽しむことができれば、より幸せな自分らしいキャリアを築いていけるんじゃないかなと思います」(菊間さん)
爽やかな雰囲気ながら、その奥に秘めた熱い思いがたっぷり感じられた45分間の講演は、菊間さんの温かく力強いエールで幕を閉じました。
文/氏家加奈子 写真/長崎辰一