脳神経外科医・菅原道仁さんに聞く、お金の悩みを解消する方法。完結編となる今回は、上手に貯蓄するコツを教えてもらいました。脳科学の見地から見ると、実は私たちの脳はムダ遣いをするようにできているんだとか。そんな「本能」をコントロールしたいなら、ぜひご一読ください。

第1回 私たちが「1000万円貯めても不安を消せない」理由
第2回 貯蓄減っても後悔なし 医師直伝・幸せなお金の使い方
第3回 ムダ遣いは「脳」のせい 幸せな人生とお金を守る方法(この記事)


ムダ遣いの原因は、「脳の流されやすさ」にあった

そのムダ遣いは、脳のせいでした。お金を守る方法とは? (C)PIXTA
そのムダ遣いは、脳のせいでした。お金を守る方法とは? (C)PIXTA

 「私たちの脳は、楽な方向に行くものです」と、菅原さん。その理由は、エネルギーの消費量を最小限に抑えなくてはならないから。

 「脳は眠っている時ですら働いているため、物事を深く考えることを減らさなくてはなりません。そのため、かゆいところを無意識にかくというように、自動的、反射的に処理しているんです。言い換えるなら、脳はこうした自動的な思考のわなに引っ掛かりやすいということですね」

 このように、反射的な判断によって、気付かないうちに脳が誘導されたり、だまされたりする状態のことを、心理学の用語では「認知バイアス」と言うのだとか。

 「ムダ遣いを後悔するときは、いつの間にか脳が『買う』方向に誘導された結果であることが大半。本当はいらないものなのに、判断(=認知)がゆがめられ(=バイアス)、『欲しい』『必要だ』と思わされ、買わされてしまうのです」

 この「認知バイアス」を巧みに利用しているのが、マーケティングの手法。例えば「バンドワゴン効果」と呼ばれる現象も、これに当たるそうです。

 「『バンドワゴン効果』とは、『大勢の人が選んでいるからよいものだ』と、脳が認識してしまうこと。私たちは、自分のことは自分で判断していると思い込みがちですが、実は周囲に合わせた行動を無意識に選んでいることも多いんです。これは、脳が他人と同じ行動を選択することで、できるだけ少ない労力で大きなメリットを得ようとするから。

 例えば、テレビで紹介されたお店に行列ができていると、つい並んでしまう人が多いのも『バンドワゴン効果』の一種。自分の意思ではないのに、つられてお金を使ってしまうのです」

賢く貯めるための「スモールステップ」と「ご褒美サイクル」

 脳の自動的な思考に流されていては、1000万円どころか貯蓄と言えるほどの額すら貯めるのは難しいですよね。だからこそ、前回の記事「貯蓄減っても後悔なし 医師直伝・幸せなお金の使い方」で菅原さんが教えてくれた、「ストーリーを描く」ことが大切。また、貯蓄目標額が大きい場合は、短いスパンや少額から目標を設定する「スモールステップ」も効果的だそうです。

 「いきなり『60歳までに1000万円』となるとくじけてしまいがちですが、『毎月4万円貯金する』を目標にすれば長続きしやすいもの。この額なら、20年で960万円貯められます。

 また、貯蓄のモチベーションを保つなら、『ご褒美』を自分にあげるのも有効。この場合、欲しいモノを買うのでもよいですが、本当に貯めたいなら自己投資がオススメです。単なる消費ではなく、資格取得や勉強にお金を使い、資格の合格や自身のスキルアップ・収入アップがご褒美になる、というサイクルを繰り返せたらよいですね」