「下手くそ!」と怒鳴られ、トイレで泣く毎日

 報道の仕事を40年続けてきた安藤さんは、辞めたいと思ったことはないのでしょうか? それに対する答えも意外なものでした。

 「当時のオフィスはテレビ朝日の別館でボロボロの建物でした。テレビ局には女性が存在しないかのように、女子トイレは個室が一つだけなんですよ。私は仕事がうまくいかなくて、毎日トイレに籠もって『もう辞める』と泣いていました。当時の女子トイレの個室の壁はボコボコでしたが、犯人は私です(笑)」

 元々、ホテルウーマンを目指していたという安藤さん。テレビの世界はたまたまアルバイトで入っただけの場所でした。「何してるんだ!」「下手くそ!」と怒られるたびに「だって、私、アルバイトだもん」「好きで入ったわけじゃないし」――できないことのエクスキューズを探していた自分を「そんな人間が、認めてもらえるような仕事ができるわけがない」と安藤さんはきっぱり断じます。

 そんな安藤さんを変えたのは22歳ごろ、共産主義体制のポーランドの取材でした。労働組合のワレサ議長(のちの大統領)のインタビューを取るのが目的でしたが、ずっと待つだけの日々で、食べるものが思うように手に入らないいら立ちもありました。

 1カ月たって様子を見に来たプロデューサーに「可能性はないから帰りたい」と直訴したところ、「フロントにチケットを用意しておくから明日、帰れ」と言われたそうです。

 「ホッと胸をなで下ろして『東京に帰れる』と思ったのもつかの間、チケットを受け取った途端に猛烈に惨めな気持ちになった。できないから帰る、逃げるという自分の性根の惨めったらしさに腹が立って、プロデュ―サーに『最後までやらせてほしい』と、頼みました。そのとき、初めて自分自身がちょっとだけ変わった気がしましたね」

「うまくできた」と思えるのはこの40年で数回だけ

 安藤さんは、2015年から生放送番組『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ系/毎週月~金曜13:45~)でメインキャスターを務めています。「CM○秒前と言われたとき、言いたいことを7~8秒に閉じ込めるのは難しい。自分の言葉が全く違う方向に伝わったり、視聴者を不愉快な気持ちにさせるかもしれない。一度出た言葉は取り戻せないから不安になることも多いんですよ」と安藤さんは正直な気持ちを吐露します。

 さらに「年間何百回もテレビカメラの前に立ち、それを40年も続けていますが『今日の私は抜群にうまくいった』と思えるのは2~3回くらいですね」と話すと、参加者からは「へ~」と驚きの声が上がりました。

 「こんなに長くやっているのにどうしてうまくできないのか不思議ですが、その積み重ねが私をつくってきた。できないからこそ、もっといい放送、もっと伝わる放送ができるのでは思って続けています」

 最後に安藤さんは「女性が働くときの落とし穴についてお伝えしたい」と切り出しました。その一つは、男性と同じ仕事をしても女性であるが故に過大評価をされがちなこと。

 「湾岸戦争から帰ってきたとき、『女性で湾岸戦争の前線に行ったのは安藤さんだけだから、記者会見をしてほしい』と言われました。前線には医療スタッフなど女性もたくさんいるのに、なぜ記者会見するのか分かりませんでした。同じ仕事をしても女性は2~3割、下駄を履かされて評価される可能性があるので気を付けたほうがいいでしょう」

 もう一つは、安藤さんいわく「女性自身が女性を過小評価すること」。どんな生き方を選択しても自由ですが、女性だからといって「私には無理」と自分の能力を過小評価して「私には無理」と尻込みしてしまうのは、女性が陥りやすい落とし穴なのです。