時代の要請でもある女性役員のリーダーシップ

 次に登壇したのは、総合コンサルティング企業のアクセンチュアでマネジング・ディレクターを務める植野蘭子さん。「女性役員に必要なリーダーシップの育成」として、「ストロング・ネットワークス」すなわち人脈の形成について、アクセンチュアでの実例や自身の経験などをもとに解説をした。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 人材・組織管理 マネジング・ディレクター 植野蘭子さん
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 人材・組織管理 マネジング・ディレクター 植野蘭子さん

 アクセンチュアは、世界55カ国、200都市以上で事業を展開するグローバル企業だ。ジェンダーダイバーシティを経営上重要な戦略と捉えて力を入れている企業としても知られ、グローバルでは女性社員は41%、管理職以上では29%が女性である。日本法人は、それに比べると後れを取っているというが、女性活用施策により2006年からの10年余りで、女性社員が5倍、女性管理職が4倍となり、目に見える効果が上がってきていると話す。

 植野さんは、こうしたアクセンチュアの取り組みについて、「多様なバックグラウンドを持つ社員一人ひとりが個性を発揮していかないと、多様なお客様に対して価値を提供していくことができない」と語った上で、「これは弊社に限ったことではない。新たなテクノロジーによって一夜にして市場の流れが変わってしまうような世の中で、これまで通りの画一性なリーダーシップでは、企業として勝ち抜いていけない」と力説した。

リーダーに必要とされるストロング・ネットワークス

 だが、そうした現状にもかかわらず、「日本企業の女性の管理職登用は進んでいない。先進諸国の中でも最下位争い」と植野さんは嘆く。日本企業に女性リーダーが増加しない理由は多面的に考える必要があるが、家庭との両立や自身の能力に対する自信のなさなど、女性自身が管理職を目指す上で不安を抱えている点も見逃せないという。

 では、女性のリーダーシップをどう強化していけばよいのか。アクセンチュアでは、新たな時代のリーダーは、信頼性、交渉力、俊敏性、グローバル・プレゼンス、ストロング・ネットワークス、影響力、エグゼクティブ・プレゼンス、EQの8つの力をバランスよく備えていることが必要だと定義している。

 そのうちの今回の講演のテーマであるストロング・ネットワークスとは、単に「顔が広い」、「名刺の数が多い」ということではない。「自分が仕事で活躍するときやキャリアアップするときに、実質的に活用できる人脈をどれだけ持っているかということで、時として仕事のスキルよりも重要な戦略的資産になる」と、植野さん。

 ロールモデル、コーチ、メンター、スポンサーという四つのファクターで構成されるストロング・ネットワークス。その必要性とメリットを認識するために、植野さんは講演でユニークな手法をとった。舞台から会場に呼びかけ、「隣の席の人と、これまでに人脈でどんな恩恵を受けたか、シェアしてみてください」と、植野さん。それまで静まり返っていた会場に女性たちの声が上がり、本イベントに熱心な聴衆が集まっているということを再認識させられた瞬間となった。

 「人脈のメリットや人脈形成の本質を考えてみると、人脈に意外と助けられていることが分かるはずです。そうしたこれまでの経験をもとに、ストロング・ネットワークスを構築していくといいと思います」(植野さん)

人脈の構築は一夜にしてならず、育てていくもの

 ストロング・ネットワークスは、「自分を知る」「目的地を定める」「前進する力を得る」ためにもリーダーにとって必要不可欠なものであり、「優秀な女性ほど、ストロング・ネットワークスをうまく活用している」と、植野さん。

 では、どう構築していけばいいのか。植野さんは、「一朝一夕で構築できるものではない」と話す。ストロング・ネットワークスを築くには、まずはネットワークが不足していると認識した上で、人との出会いを増やしてネットワーク量を増加させ、それを生かせる状態、つまり質を高めていく……という三つの手順を踏む必要があるからだ。

 「一番難しいのは、質を高めるステップ。一緒に何かできそうな人と出会ったら間を空けずに連絡を取り、関係を構築すること。そして自分がやりたいことや目指したいことをしっかり伝えて、共有することも重要なポイント」(植野さん)

 自分の人脈を把握するには人脈図を作るのも一つの手ということで、講演では植野さんの人脈図も公開された。社内・社外、仕事・仕事以外の軸を作るなどして可視化すると、「実は自分にはロールモデルがいなかった」などの気付きも得られるという。

 「ストロング・ネットワークスは、自分の目的達成やキャリアのために生かせるもので、インタラクティブなやり取りが社内・社外あらゆるところで必要になる女性リーダーにとっては、極めて重要。広げるのではなく育てるという意識で質を向上させていくことが大切です」(植野さん)