ダイバーシティ&インクルージョンの実現によりあるべき社会へ

日本航空取締役副会長・大川順子さん
日本航空取締役副会長・大川順子さん

 続いて登壇した日本航空取締役副会長の大川順子さんは、JALグループのダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実現に向けての取り組みについて語った。まずは、日本航空の事業内容や歴史、実は今でいう「リケジョ」だったという大川さんのプロフィールなどを紹介した後、2010年に経営破綻した日本航空がいかに再生の道を歩んだのかについて話を進めた。

 経営破綻後、客室本部という現場を離れ、経営陣の一人となった大川さん。印象的だったのは、大川さんが役員に就任した時に撮影されたという1枚の写真だ。そこに写っている女性は、大川さんただ一人。「航空業界の現場は、女性が活躍するのが当たり前という恵まれた環境でした。ところが、経営層は違ったんですね。現場の当たり前が当たり前ではないことを知りました」と、大川さん。

 日本航空の経営再生に当たってまず教えを乞うたのは、京セラの創始者である稲盛和夫氏。稲盛氏は、当時まだダイバーシティという言葉こそ使っていなかったが、大川さんは稲盛氏からさまざまな教えを受ける中で、「経営にとって大切なのは、一人ひとりの尊重。その総合力が会社にとって大きな実績となり、個人にとっては成長や幸福度につながるものなのだと気付いた」と話す。

 日本航空では、そうした稲盛氏の教えがD&Iの実現にもつながったのではないかという。欠かせないポイントは2点だ。1点目は「ダイバーシティ推進(女性活躍推進)は、企業として『経営戦略』の一つである」、2点目は「女性活躍推進の達成可否は、『考え方』と『仕組み』に対し、経営トップがいかにコミットするかにかかっている!」ことだと言い、その内容を大川さんが実例を交えて解説した。

 1点目の「経営戦略」としては、その思いを全社員が共有するためのJALフィロソフィの内容がそれに当たる。40ほどの項目を作り、「本音でぶつかれ」「利他の心」「物事をシンプルにとらえる」など、あるべき姿を分かりやすく説き、全員参加型経営を目指した。

 「例えば、『物事をシンプルにとらえる』を例にとると、中期経営計画などを策定するとき、つい難解な言葉や長い説明文を用いてしまいがちですよね。自分の思いを自分の言葉で部下に語ることを心掛け、『お詫びと感謝』『愛情と信頼』などというシンプルなフレーズに変換し、CAたちに浸透させるようにしました」(大川さん)

 2点目の「考え方と仕組み」については、「考え方」「仕組み」に分けて解説。「考え方」とはつまり、社長の意識改革メッセージのことで、日本航空では2011年からほぼ毎年、社長メッセージを発信し、明確に経営の意志を表明し続けているという。「トップからの考えをメッセージとしてしっかり社員に伝えることがとても大切だと思っています」と、大川さん。そして、そのトップの考えを実行するために必要となるのが、「仕組み」である。具体的には、女性の育成強化、両立支援、ワークスタイル変革のことだと言い、例えば日本航空では育成強化として女性推進についての研究や提言を行う「JALなでしこラボ」を結成している。

 「一人ひとりが会社を動かす大きな力になっていると実感することが、女性がさらに活躍しようというモチベーションになっています」(大川さん)

 とはいえ、大川さんは、こうした活動は自己満足にしてはいけないといつも肝に銘じていると話す。「当社では、毎年、従業員満足度調査を行っていますが、全世代的にポイントは上がってきている。今後も、『グループがどう変わっていくのか』『新しい価値をどのように生み出せているのか』といった視点を忘れないことが大切だと思っています」(大川さん)

 女性が活躍する社会というのは、本来あるべき社会の姿。D&Iは、それを実現できる大きなポテンシャルがある。最後に、「自分を信じるか信じないかで人生は大きく変わる、さあ始めよう新しい世界へ」という、日本航空がサポート契約している米MLBの大谷翔平選手のメッセージを会場の女性たちへのエールとして紹介し、講演を締めくくった。