5月19日(土)・20日(日)に東京ミッドタウン(東京・港区)で「WOMAN EXPO TOKYO 2018」が開催され、20日には「あなたの知識、大丈夫? 専門医が勧める正しい腸活!」と題したセミナーが開かれました。
 注目度が高い腸活に関するセミナーとあって、会場は満席で、立ち見の人も数多く見られる盛況ぶり。登壇者の話をメモしつつ真剣に聞き入る姿が目立ちました。

大勢の人が集まった腸活セミナー。真剣にメモを取る人の姿も見られました
大勢の人が集まった腸活セミナー。真剣にメモを取る人の姿も見られました

心身ともに健康でいるために大切なこととは

 まずは、日経BP総研 メディカル・ヘルスラボ 客員研究員の西沢邦浩が「腸活は世界中で注目の的。腸の働きは、美容、ダイエット、感染症予防、メンタル面など全身に関連していることが分かっています」と口火を切りました。

 そして最初は、日本橋レディースクリニック院長の野澤真木子さんの、腸内細菌と腸活についての講演です。

 「便1g当たりに1兆個の腸内細菌が含まれるといわれ、理想的な便には健康に有益な腸内細菌が含まれている可能性が高いのです。腸内細菌とは、腸内に生息する1000種類以上、100兆個以上の菌の集団で、重さは1.5kgにもなります」(野澤さん)

 理想的な便は、便意をもよおしたときにおなかが痛くなく、少しいきむだけでスルッと出るような、練り歯磨きくらいの軟らかさ。便の80%が水分で、残り20%は消化液、食物、腸内細菌なので、日常生活で水分を取らないと、ウサギの糞のようにコロコロに固まってしまい、排便しにくくなるそう。

 腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があり、善玉菌は腸内環境を整え、抵抗力を整え、免疫機能維持、ホルモン生成などを行います。一方、悪玉菌はさまざまな病気を引き起こし、発がん物質をつくるので悪い菌と思われがちですが、外敵菌から体を守るという重要な働きもしています。日和見菌は環境により善玉にも悪玉にも変わる菌だそうです。

 「腸内には善玉菌と悪玉菌がバランス良く存在することが重要。バランスが崩れると大腸がん、糖尿病、肥満、うつ病、動脈硬化その他の多くの病気の原因になると考えられています」(野澤さん)

 腸内細菌は年齢とともに変化し、若い頃は善玉菌が多いが、高齢になると悪玉菌が増えます。腸内細菌の状態には生活習慣や食事の影響が大きく、5日間くらいの短期間の食事の変化によっても構成が変わるという報告もあり、旅行や不規則な生活が続いて体調の不具合を感じるときには、腸内細菌が関与している可能性があるとのことです。

 「腸壁には1億個の神経細胞が張り巡らされ、脳と腸は神経やホルモンなどを介して互いに影響を及ぼし合っている。これを脳腸相関といいます。脳腸相関にも腸内細菌が関与し、脳の機能が低下しても腸は独自に活動できる臓器なので、『第二の脳』といわれるのです」(野澤さん)。

日本橋レディースクリニック 院長の野澤真木子さん。「腸内細菌のバランスが崩れると、体の不調の原因にもなる」と話しました
日本橋レディースクリニック 院長の野澤真木子さん。「腸内細菌のバランスが崩れると、体の不調の原因にもなる」と話しました

善玉菌のエサになる食物繊維をたくさん取ろう

 「腸内細菌に一番影響が大きいのは食事。善玉菌が大好きな食物繊維、オリゴ糖、発酵食品を毎日の食事に取り入れましょう」(野澤さん)

 食物繊維は小腸で消化されない炭水化物です。「食物繊維は炭水化物」と言うとちょっと意外に思いますが、炭水化物はエネルギーになる糖質とエネルギーにならない食物繊維から構成されているとのこと。

 「このように食物繊維は非常に重要なので、厚生労働省は1日の摂取目標を成人女性で18g以上、成人男性は20g以上としています。しかし、昭和26年の摂取量は22.7gだったのに、現在では14.3gに減少。若い層の摂取量が非常に減っていますが、60~70歳代でも目標値に届きません。米の消費量が減り、雑穀類を食べなくなったのが一因でしょう」(野澤さん)

 食物繊維には水に溶けてゼリー状になる水溶性と、水に溶けずに水分を含んで膨らむ不溶性があります。水溶性は肥満防止、糖尿病予防、大腸がん・高血圧・高脂血症予防効果があり、不溶性は便の量を増やすので便秘防止、大腸がんや腸の病気を予防するそうです。

 「日常生活で取りにくいのが水溶性食物繊維です。水溶性食物繊維を取るには、ゴボウなどの根菜類をゆでて食べるのがお勧め。大麦、かんぴょう、納豆などにも含まれるので一工夫して活用を。例えば週末に根菜類をたくさんカットして冷蔵庫に保存しておき、平日に野菜たっぷりの味噌汁を作ったり、スープに大麦を入れたり、かんぴょうをゆでて卵焼きに加え、お弁当のおかずにしてもいいですね」(野澤さん)

 腸内細菌の多様性の低下が病気の一因といわれているので、偏らずにいろいろな種類の食材を取るのが肝心。大豆類は女性にうれしいイソフラボンを含みます。イソフラボンは乳がん、卵巣がんの発生を抑制すると言われているとのこと。

 また、発酵食品の中に含まれる微生物が腸内細菌叢(そう)にいい影響を及ぼすので、食物繊維プラス発酵食品が理想的。味噌、しょうゆ、漬物、納豆、米酢、鰹節などの発酵食品を使った和食を普段の食事にもっと取り入れると、腸内細菌にいいそうです。

女性のがん死亡率1位の大腸がんにも腸内細菌が影響

「自分の腸の環境、腸内細菌の状態を知るためには、便の状態が目安になります。2、3日排便がなくても、おなかが痛い、おなかが張ってつらい、といった症状がなく、かつ理想的な便が出ていれば治療する必要はないでしょう。しかし、便秘が続き、おなかの痛みや張りがある人は注意が必要。大腸の病気が原因になっている可能性もあるので、専門医を受診しましょう」(野澤さん)

 女性のがんの死亡率の1位は大腸がんです。2016年度の調査によると、乳がんは、発症は多いが死亡率は5位。近年、芸能人の乳がん発表が影響して、乳がん検診の受診者が増え、早期に発見できている可能性もありそうです。しかし、「大腸がんはなかなか初期で発見しにくいこともあります」と野澤さん。

 「大腸がんを早く発見するためには、地方自治体が行う大腸がん検診を受け、便の潜血反応が陽性と出た場合には、すぐに専門の医療機関を受診すること。普段から肛門から血が出ている、いぼ痔や切れ痔がある、などの理由で潜血反応が陽性と出ても放置してしまう人がいますが、ぜひ精密検査を受けてください」(野澤さん)

 生活習慣と大腸がんの関係を見ると、がんを促進する因子としては、肥満、赤身肉、加工肉などがあり、抑制する因子には食物繊維が挙がっています。

 「悪玉菌は、高脂肪、高たんぱくの食事が好き。今、食べている食事が明日の健康を左右します。日々の食事で腸内環境を改善し、腸から健康な体づくりをしましょう」と野澤さんは呼びかけました。