あまり知られていない、生殖医療の現実

 今や、日本で不妊に悩むカップルは6組に1組。体外受精(不妊治療の一つで、体外で人工的に卵子と精子を受精させてから、子宮に受精卵を戻す方法)で生まれている赤ちゃんは24人に1人。学校のクラスに一~二人くらいの割合ですね。

 「2010年のデータでは、日本の体外受精の実施件数は世界一です。しかし実際に出産に至った確率は世界の中でも際立って低い。いくつか原因が考えられますが、海外に比べて日本では体外受精に高齢の卵子を使う場合が多いことが挙げられます。これには体外受精の開始年齢が高い、若いドナーではなく自分の卵子を使うなどの理由があります。あまり知られていないけれど、これが生殖医療を受けても出産という結果につながりにくい大きな原因の一つと考えられます」(善方先生)

出産に至らない卵子の割合が増えてくる

 卵子が老化すると、なにがよくないのでしょうか? それは、妊娠しにくくなる、せっかく妊娠しても出産に至らず、流産しやすくなるといった問題が起きるからです。

 卵子の老化は30代後半から始まります。統計では、生産(せいざん)率[注]を流産率が上回るようになるのが、37~38歳ごろです。

[注]不妊治療により妊娠して、実際に出産に至った割合。


 「冒頭でお話しした通り、卵子は毎月作られるわけではありません。毎日フレッシュに作られる精子とは違うのです。卵子は、女性が生まれたときに200万個ほどありますが、少しずつ消えていき、40歳ではたった1万個ほどに。

 だから毎月生理がきていても、きちんと排卵していても、その卵子が妊娠に至らない卵子である割合が高くなっていくのです。この現実はぜひ知っておいてほしいと思います」(善方先生)

 ちなみに、今は卵子を凍結する技術が進歩してきています。「これはまさに不妊に悩む女性にとっての一つの『福音』だと私は思っています」と、善方先生。体への負担などリスクはありますし、卵子が若くても母体は年をとるので、高齢出産のリスクも残りますが、卵子の老化という問題に対する一つの手段とはいえます。

では、今自分にできることはなにか?

 今の日本では、女性が第一子を持つ平均年齢は30歳を超えています。一方、45~55歳ごろに卵巣が寿命を終え、閉経します。さらに閉経するより前から、排卵はなくなってゆくという現実もあります。

 「女性は一生を通じてホルモンの波の影響を受けますが、自分のライフステージとホルモンの関係を良く知って、今できることに取り組んでいきましょう。妊娠しやすい体をつくる基本として、心身ともに健康になることがとても大切です」(善方先生)