なぜこんなことが起こったのか?

 簡単に言ってしまえば、高齢者が新しいことを習得するスピードを、読み間違えていたのが原因です。

 同じことを教わっても、1回でさっとできてしまう人と、何回も教わってやっとできるようになる人がいて、個人差があるものです。高齢者は特に、新しいことができるようになるまでには時間がかかるので、「これが終わったら次、それも済んだら、はい今度はこれ!」というようなスピードでは進められません。その代わり、一度できるようになってしまえば、あとは淡々と繰り返すことができるという特徴があります。

 そしてさらに、こんなことが起こります。

 例えば、セキュリティ保持のため、最初の設定の際に、その人個人しかわからない三つの質問に対する答えを入力するときのことです。「初めて飼ったペットの名前は?」という質問が画面に現れると、「そんなこと言われても、私たちの時代は食糧事情が悪くてとてもペットなんか飼えなかったもんねえ」という会話が始まります。「初めて飛行機で行った場所は?」という質問には「飛行機乗ったことないのー」となる。そう、設問がそもそも地方の高齢者向けではないので、答えを入力できずにつまずいてしまい、さらにその話題でお年寄り同士の世間話が始まってしまうのです。

 こんな失敗を体験しながら、80歳を過ぎた高齢者でも、誰もがタブレットを使えるようなプログラムへとブラッシュアップしていったのです。