最先端のITを、みんなが使えるように変化させたい

 昔ながらの日本家屋のお茶の間というのは、そもそもそういうものではなかったでしょうか。おばあちゃんはお茶の間のどこか隅っこで、なんとなくテレビでも見ながら座っている。そこへ孫が学校から「ただいま」と言って帰ってくる。「お母さん、今日のおやつは?」などと、孫と娘との会話が始まる。おばあちゃんはそこで取り立てて口を挟むわけではないのですが、その会話をちゃんと聴いている。これが昔のお茶の間の姿だったのではないでしょうか。

 私たちの母親の世代は、家族に面と向かって心配されると、自分のそのときの状況を素直に打ち明けるのが苦手なのだと思います。だから電話で直接「お母さん、大丈夫?」と尋ねても、「大丈夫、大丈夫」という返事しかきません。そうではなくて、昔のお茶の間のように、家族みんながたとえ直接会話しなくても、誰かが誰かを見守り、互いのことが分かる三世代同居の状況をITで再現したいという思いが、私にはあります。

 私の両親が住む地域では、多くの世帯が老人だけで暮らしています。私は、兄・私・妹の三人兄妹ですが、誰も老老介護の両親のもとに帰れず、都会で暮らしています。それぞれに家族があって生活があり、たとえ両親のもとに帰ってもそこでは食べていくだけの糧を得られないという現実があるからです。そういう人は日本全国に相当数いますし、これからは増加の一途を辿ることが容易に予想できます。

 若い世代が高齢者と一緒に住むことがそんなにも難しいのなら、ITでもっとコミュニケーションを取れるようにできないのか。ITとはそのためにあったはずなのに。もともと最先端の技術がわかる一部の人たちだけが使うことを想定して作られた製品を、みんなが使えるように変化させたい。そして、ITでたくさんの人を豊かにしたい。そこから、たからのやまの事業はスタートしました。