昨年、「専業主婦は2億円損をする」という衝撃的なタイトルの著書が話題になりました。本の内容は、専業主婦批判ではなく、女性が経済的に自立し、自分が望む人生を送ることを勧めるものとなっていますが、出版直後は、専業主婦を中心に、女性からの批判コメントが殺到し「炎上」。一方で、意外にも多くの男性読者がいることが分かってきたそうで……。著者の橘玲さんにお話を伺いました。

働く女性の6割近くが出産を機に退職する現実

編集部(以下、略) 「専業主婦は2億円損をする」というタイトルが衝撃的でした。反響も大きかったのではないですか?

 ネットを中心に、専業主婦の方々からたくさんのお叱りをいただきました。お叱りの内容は大きく分けて2種類で、一つは「女性が2億円も稼げるわけがない」というもの。もう一つは「好きで専業主婦になったわけではない」です。

 「2億円」という金額は、もちろん私が勝手につくったわけではありません。厚生労働省所管の独立行政法人である労働政策研究・研修機構が発表する「ユースフル労働統計2016」によれば、大卒の平均的な女性が60歳まで働いたときの生涯年収は2億1800万円で、しかも退職金は含まれていません。しかし多くの専業主婦の方たちは「女が2億稼ぐなんてあり得ない」と思っているようで、自己評価の低さも感じました。

 一方、「好きで専業主婦になったわけではない」という言葉には、自分で人生を選ぶことができなかったことへのうらみのようなものも感じました。実際にそれしか選択肢がなかった女性たちがいることは確かで、「損をしている」と言われて不愉快になる気持ちは分かります。ただ、不都合なことが書いてあるからといっていくら批判しても、自分が置かれた状況は何も変わりません。

「好きで専業主婦になったんじゃない」「女性が2億稼ぐなんて無理」……さまざまな反響がありました 画像はイメージ(C)PIXTA
「好きで専業主婦になったんじゃない」「女性が2億稼ぐなんて無理」……さまざまな反響がありました 画像はイメージ(C)PIXTA

 厚生労働省の「若者の意識に関する調査」(2013年9月)によると、独身女性の3人に1人が専業主婦を希望しているといいます。実際、日本では働く女性の6割近くが出産を機に退職して専業主婦になるというデータもあり、子どもが成長して手が離れた後は、キャリアを積むことが難しいパート、非正規雇用になることが多かったのです。

 こうした現実を前に、若い女性たちの中には「子どもを産んだら、仕事も自分の好きなことも諦めなければならない」と感じ、「子どものいる(専業主婦の)人生」と「自分のために生きる自由な人生」は二者択一だと感じている人が多いようです。欧米をはじめ先進国では、家庭(子育て)と仕事を両立させ、自己実現することは当たり前とされています。未来ある若い女性たちにこんな理不尽な選択を迫る社会は絶対におかしい、そんな思いでこの本を書きました。