復帰後の思ってもみなかった「いいこと」とは

――以前、仕事を辞める時に、お母様に反対されたとおっしゃっていましたが、復帰してからはいかがでしたか?

 母はすごく喜んでいます。母はずっと専業主婦でした。私が子どもの頃、母の日やお誕生日に「おいしいごはんを作ってくれてありがとう」というメッセージカードを贈っていました。でも、私が高校生くらいの時に「そうよね、私はごはんを作る人なのよね」って、ぽろっとこぼしたんです。あまりうれしそうな様子ではなくて、「なんでだろう?」と思っていたのですが……「ママ、いつもごはんをありがとう」というメッセージを私が息子からもらうようになって初めて、母の気持ちが分かったんです。「お母さんってそういうふうに見えるかもしれないけど、もっと他にできることもあるのよ」と。

 最近、働き始めてから、子どもたちは違うことを書いてくるようになりました。「いつも仕事も大変なのに、おうちのことも頑張ってくれてありがとう。応援しているよ!」って。働いている母親を見てくれているんだな、とうれしい気持ちでいっぱいになります。

息子たちがくれる手紙の内容が変わってきました
息子たちがくれる手紙の内容が変わってきました

――お子さんとの会話も変わりましたか?

 これまでは「学校どうだった?」と、親から一方的に質問してばかりだったんですよね。でも、私も仕事でいろいろ学んできたから、自分のことを話したい!と思うようになって、「こんな人に会って、こんなことを聞いてきたよ」「社会はこんなふうに変わっていくから、将来のことを真剣に考えたほうがいいよ」なんて、社会のいろいろなことを伝えられるようになりました。

 働いていると話題が豊富になるから、子どもも親の話を興味津々で聞いてくれます。再就職してからは、子どもの進路の悩みに答えてあげられるという自信も出てきました。

 働き始める前までは、16年間のブランクがあって不安ばかりでしたが、いざ働くようになってみると、思ってもみなかった、いいことがたくさんありました。通勤は日々大変ですし、早起きもつらいですが、育っていく子どもたちといい関係を築けています。そして何より、仕事をすることが本当に楽しい。16年間の専業主婦生活を経て、ちょうどいい場所にたどり着いたように思います。

文/西山美紀 写真/鈴木愛子