――日本に帰ってからは、いかがでしたか?

 育児と家事に追われる毎日です。二人目も生まれ、早い時間に終わる長男の幼稚園送迎と4歳下の次男の世話で目まぐるしい日々。ところが、長男が小学生になった時に転機が訪れました。

 長男は毎日学校に一人で通う。まだ幼稚園に入園できない年齢の次男は家にいる。すると、私が大人と接する機会がなくなってしまった。ふと気が付くと「今日1日、子どもとしか話してない」という日が続いて社会から取り残された気持ちになり、第一線で働き続け、話題豊富でキラキラしていている学生時代の友人を見て「いいなあ……」と感じるようになりました。

 そして次男が幼稚園に入園しても「小学校に入ったら、また同じように喪失感を感じるんだな」という思いが常にあり、仕事復帰という考えが浮かぶようになりました。ただしその段階で、仕事のブランクが10年以上ありました。

「仕事を続けている友人たちがキラキラしていて羨ましくなりました。私はこのままでいいのだろうかと…」
「仕事を続けている友人たちがキラキラしていて羨ましくなりました。私はこのままでいいのだろうかと…」

――それで、就職活動を始めたのでしょうか。

 いえ、まずは社会復帰をする際に、分かりやすいスキルがあったほうがいいだろうと、TOEICを受験することにしました。私自身、帰国子女だったので、英語ならなんとかチャレンジできそうだと思って。長男が小学5年生、次男が1年生の時です。

――なんと、満点(990点)だったとお聞きしました。

 初めてのTOEICだったのですが、とにかく勉強が久しぶりで楽しかった。「やるからには満点を取ろう!」と気合いを入れて、子どもが小学校に行っている間や習い事の送迎の空き時間、子どもたちの就寝後など隙間時間を見つけて勉強しました。

 TOEICの模擬テストが2時間ほどかかるので、当時小5の長男に「今からこのテストを2時間やるから、静かにしていてもらえるかな? これはTOEICっていう英語のテストですごく難しいんだけど、ママは満点を狙いたいから」と、長男に宣言したんです。「頑張って! 僕も隣で宿題やってもいい?」と、長男は隣でうれしそうに宿題をやっていました。家事に育児にといつも走り回っている母親が、何か腰をすえて勉強しているぞ……という雰囲気が、彼にとって新鮮だったのかもしれません。

――そうしたら、満点を取れた……。

 そうなんです。最初に長男に見せたら、「すごいじゃん!」と、ものすごく喜んでくれました。内容が何かは分かっていないと思いますが、満点という響きが効きました。彼の尊敬を勝ち取った瞬間でしたね(笑)。

 それまで、「ママはいつでもそばにいるよという思いがあれば子どもたちは喜ぶだろう」と思っていたのですが、母親が頑張る姿を見せるのもいいのかもしれないと、考えが変わっていきました。

――TOEICが満点ということで、再就職はしやすかったのでしょうか。

 それが……思いの外、希望する仕事に就くのは難しかったです。人材サービスに登録したのですが、TOEIC満点をアピールできる仕事は週5勤務のフルタイムばかり。私は、家事と仕事の両立だけでも挫折したことがあるのに、今度は子どもが二人いる。10年以上のブランクもある。こんな私がいきなりフルタイムでバリバリ働くなんて無理だと思いました。でも、「週3勤務、できれば時短で」という条件で探すと、TOEICは特に必要ない求人が並びます。

 外資系企業でバリバリ働いている友人に「週3勤務で15~16時に帰りたいんだけど、どう思う?」と聞いたら、「あるわけないでしょ!」と笑われました。当時は「そりゃそうだよね」と自分でも思いましたけれど(笑)。なかなか希望の職には就けませんでした。