「仕事を辞めて専業主婦を選ぶと、二度と元のキャリアには戻れないのでは」と不安を持つ人も多いのではないでしょうか。ところが、「専業主婦は立派なキャリアになる」と話すのは、薄井シンシアさん。外資系一流ホテルの営業開発担当副支配人を経て、5つ星のラグジュアリーホテルに勤務。現在は日本コカ・コーラで東京2020年オリンピックホスピタリティの責任者を務めています。実は、薄井さんは17年間専業主婦をしていました。その後、「給食のおばちゃん」や電話受付のパートというキャリアを重ね、今があります。「専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと」(KADOKAWA)の著書もある薄井さんに、専業主婦を経てのキャリアについてお話を伺いました。

専業主婦からのユニークなキャリアが話題の薄井シンシアさん
専業主婦からのユニークなキャリアが話題の薄井シンシアさん

「専業主婦というキャリア」を積極的に選んだ

――フィリピンの華僑の家に生まれ、20歳で国費留学生として来日。東京外国語大学を卒業後、広告代理店に勤務し、27歳で日本人と結婚して30歳で出産されました。

 20代の時、私は仕事が大好きで、人一倍ビジョンがあり、キャリアが欲しくて、「偉くなるぞ!」と思っていました。だから当時の私は、自分が専業主婦になるなんて全く考えられませんでした。

 ところが、30歳で娘が生まれた瞬間に心が決まったんです。「この子を育てることが、私の人生最大の仕事だ」と。

 絶対に後悔したくない。子育てに専念したい。夫は忙しくて、家にほとんどいません。そんな夫と結婚したのは自分ですから、夫に文句を言っても仕方がない。それなら、自分の限界に合わせて道を選んでいこうと考えました。不器用な私にとって、「子どもも育てたいし、仕事もしたい」というのはどう考えても無理。現実を見極めれば、何を選ぶかは明白です。きちんと納得した上で「積極的に」専業主婦を選びました。

 でも、いずれ子どもは親から離れていきます。その段階になったら、また自分が頑張って人生を切り開いていくんだと思っていました。

――5カ国で20年間暮らしたとお聞きしました。その間は、どのように過ごされたのでしょうか。

 家事と育児に全力を注ぎましたね。専業主婦ですから、家事と育児が「仕事」です。専業主婦の仕事は誰かから評価されることが少ないので、手を抜こうと思えば抜けます。でも、仕事である以上、いいかげんなことはできません。その日の気分でやったり、やらなかったりという仕事はありません。漫然とこなすのではなく、真剣にやる。

 家事は、炊事、洗濯、掃除、買い物、家計管理などがありますが、さらに細かな仕事と手順があり、それらを同時進行で行う「マルチタスク」の力が求められます。家族への気遣いや接し方はホスピタリティそのものですし、世の中に出回っている商品やサービスは、主婦に買って使ってもらうものが多いので、主婦目線を養うことができます。

 子育てだけではなく、PTAや地域活動もあります。子どものクリスマスやハロウィーンなどのイベントでコスチュームを作るにはクリエーティビティが求められます。子どもを一人の大人に育て上げるために、言っても聞かない子どもにどう理解させるのか、子どもの可能性をどう伸ばしていけばいいのかなど試行錯誤することで、子どもだけでなく、自分自身も成長していけると感じました。

 まさに、専業主婦は「立派なキャリア」を積み重ねていけるのです。