「病気」もモードチェンジのチャンス

 そして二つ目のモードチェンジの方法は、「病気を武器にする」こと。現代は、ストレス社会。不調やモヤモヤを抱えて苦しんでいるときこそ、人生の流れを変えるチャンスなんだそう。

「懸命に働いている皆さんの中には、もしかするとストレス性の病気を患っている人がいるかもしれません。もしくは、ある日突然、それまで張りつめていた糸がプツンと切れ、抑うつ症状に悩まされている人も少なくないと思います。私自身が、そうでした。30歳の時に、心身症の一種である『メニエール病』を発症したのです」

 メニエール病は、耳の奥にある三半規管の異常によって、バランス障害が出る病気。ストレス過多によって引き起こされるといわれていて、激しい回転性のめまいや難聴、耳鳴りなどの症状に見舞われます。

「リクルートに入社してからの8年間、私は無我夢中で働き、トップ営業マンとなり、出世の階段を駆け上がっていました。新規事業を手掛ける営業部門で責任のある仕事を任され、結果も出し、全社のMVPまでもらっていた――。病気になったのは、そんな矢先の出来事でした。

 症状はひとまず注射で抑えたものの、発症してからの5年間は、後遺症に悩まされる日々。午後になると集中力がなくなり、どうしても頭がボーッとしてしまう。思考がまとまらなくなり、そうなると当然、仕事にも影響が出てきます。しかし、努力や根性ではどうしようもない。

 この病気をきっかけに、私は出世コースから降りる決断をしました。つまり、『みんな』が『正解』とする『幸せ』から、大きく外れる道を選んだのです」

 藤原さんが病気になるまで働き続けていた理由の一つには、『早く・ちゃんと・いい子に』を求める「成長社会」の影響があったと言います。

「勉強していい大学に入り、いい成績や結果を出して昇進すれば、幸せになれる。そう教育されて生きてきて、その価値観に合う人間になろうと、私自身が望んで必死で働いてきました。

 しかし、今にして思うと、病気は自分に対する警告だったのです。あのまま走り続けていたら、おそらく取り返しのつかないことになっていたでしょう」

体のサインをしっかり受け止めて (C)PIXTA
体のサインをしっかり受け止めて (C)PIXTA

「メニエール病によって、私は『早く・ちゃんと・いい子に』を実践できなくなりました。でも、病気になり出世コースから降りたことで、私は『自分の人生』を生きる道を選べた。心身の不調が、私にモードチェンジのチャンスを与えてくれたのです。

 もしも今、『早く・ちゃんと・いい子に』ができなくなってしまっている人は、それが合図。今まで通りのやり方が通用しなくなったときにこそモードを変えて、『自分の人生』を生きる道を選びましょう。

 誤解のないように言っておくと、私は『早く・ちゃんと・いい子に』を守っている人生を、否定したいわけではありません。ただ、あまりにもそれにとらわれて苦しいなら、少しだけ緩めてみてはどうでしょう。

 例えば、『正解』を求める割合を減らして、自分が納得する『納得解』の割合を増やしてみるのです。今が正解9割・納得解1割なら、正解7割・納得解3割くらいまでに調整してみる。そうすると、カサカサになった人生に、少しずつ潤いが生まれてくると思います」

 心身の不調に苦しんでいる人は、体をいたわりながら、まずは「自分時間」を大切にすることから。体のサインをしっかりと受けとめて、人生の流れを変えるチャンスをつかみましょう。

 後編は、三つ目のモードチェンジの方法をお伝えします。

前編:10年後、理想の自分になる「モードチェンジ」の方法(この記事)
後編:自分探し・正解探しはやめる「体験至上主義」のススメ 5月18日公開予定

聞き手・文/青野梢 写真/PIXTA