EC通販大手のアスクルは昨年2月、埼玉県三芳町の物流センターで大規模火災が発生したことがニュースになった。物流が停滞しただけでなく、近隣住民へも大きな不安を与えることとなった会社最大の危機をどう乗り越え、どのような教訓を得たのか。困難な状況で発揮された社員のエンゲージメントの高さの源は。岩田彰一郎代表取締役社長兼CEOに経営者としての思いと、火災を経て考える、テクノロジーを活用した価値創造や新たな働き方について聞いた。

地域との信頼関係の重要性を痛感。災害時協定結び地域に貢献する

――昨年の火災は完全な鎮火まで12日間かかった、大変な出来事となりました。

岩田社長(以下、岩田):経営者をしていると、本当に思いもかけないことがいろいろ起きます。従来の物流センターは港湾部の倉庫街など、あまり人家のないところに建てていました。しかし、東日本大震災で仙台のセンターが津波の被害を受けたこともあり、初めて内陸部に作ったのが三芳のセンターでした。

 火災発生当日、これは大きな火災になるということで、対策本部を作って二つのチームに分けました。一つはBCP(事業継続計画)のチームで、もう一つは地元の皆さんに対応するチーム。そのときに私は「我々は被害者ではなく加害者。そのスタンスで対応しよう」ということを言いました。執行役員メンバーが現地に常駐し、火災発生から鎮火以降も、「今日はどうですか?」「マスクと水をお届けに来ました」と、近隣の方々を毎日お訪ねしました。

――あの火災で得た、経営者としての学びはどのようなものでしょうか。

岩田:地域や近隣の皆様との信頼関係を築くことの大切さです。

 町長や知事にお会いしたり、地元を回ったりする中で、三芳がどういう場所なのかということがだんだん分かってきました。9代350年にわたって農家をやっているというような家がたくさんある。なぜかというと、江戸時代に柳沢吉保が新田開発を推進した歴史のある農業地帯だからだそうなんです。

 風が強く乾燥した土地に防風林を作り、その落ち葉を作って土を耕す。そうやって開拓した土地をみなさんが大事に守ってこられたんですね。昔ながらの組織や人間関係も根付いていて、消防団の方たちには何日も夜を徹して対応していただきました。どうお礼をすればいいか分からないほどです。

 住民説明会では怒号一つなく、むしろここでちゃんと再建しなさいよというような励ましまでいただきました。今回のことで、地元というステークホルダーとの関係が逆に深まったように思います。今度建て替える新しいセンターは、昔ながらの自然環境に配慮した、地元の景観に合うものを作ろうと考えています。また、火災で経験したことは、計画中だった大阪・吹田市の新しい物流センター「ASKUL Value Center関西(AVC関西)」にも生かされました。

1973年ライオン油脂(現 ライオン)入社、ヘアケア商品開発等を担当。86年プラス入社。92年プラスの新規事業であるアスクルの開始にあたりアスクル事業推進室室長に就任。97年当社の分社独立とともに代表取締役社長。2000年より現職。06年より資生堂社外取締役(現任)。経済同友会では、04年より幹事を現任、08年~12年は副代表幹事を務める