日本テレビで記者として働いていた鈴木美穂さんは、入社3年目の2008年に乳がんが発覚。当時24歳だった鈴木さんは、がんとどのように向き合い仕事に復帰したのか。そして現在、記者と並行して取り組んでいるがん患者とその家族のための施設「マギーズ」とはどのようなプロジェクトなのか。建設途中の「マギーズ東京」でお話を伺いました。

「がんになった」と言えなかった

 がんが発覚したとき、闘病のために8カ月間の休職を余儀なくされました。その間の心境はひと言では言い表せないですね。がんへの恐怖と死への恐怖で、絶望の淵に立っていました。例えるなら、ゲームをしていて皆のライフはまだたくさん残っているのに、私のライフはあと一つしかない。そんなギリギリの状況に置かれているという焦りがありました。「自分以外」のすべての人がうらやましかったです。

日本テレビ報道局・社会部記者/NPO法人マギーズ東京共同代表理事 鈴木美穂さん
日本テレビ報道局・社会部記者/NPO法人マギーズ東京共同代表理事 鈴木美穂さん

 この感覚は、たとえ家族や親しい友人でも分かち合えないところがあると思いました。がんを経験した者にしか共有できない気持ちがあるんです。そこで、仕事に復帰してから、私個人としてがんに苦しむ方たちのために何かできることをしようと思い、若年性がん患者を応援する団体「STAND UP!!」を立ち上げました。

 「STAND UP!!」では、全国のがん診拠点病院で配布するフリーペーパーを発行することにしました。がんに関わるどんな状況の人が読んでも希望が持てて、前を向いて生きようと思える内容にしたい。そこで、当初からがん患者の方の体験談は顔出しで掲載しようと決めていたのですが、1号目の制作は難航しました。顔を出したくないという方がとても多かったんです。

 でも私は、自分ががんだと言いづらい状況こそ、がんへの恐怖を増長させている気がしていたんです。大変でしたが、「生きる」というポジティブなコンセプトに賛同してくださった方たちのおかげで、無事発行に漕ぎつけることができました。