年に1度はインスピレーションを得るために海外へ

 以前はオンとオフの境目がなくて、つい夜中まで装飾作りに没頭してしまうこともよくありました。でも、それでは体にもよくないので、今はなるべくメリハリをつけるようにしています。お休みのときは友人と遊ぶことが多いので、なるべく土日に休んで、1日の中でも会社員の働き方にできるだけ近づけようと意識しています。

 作品のアイデアは、ファッションやファブリックを参考にすることが多いですね。ウエディングドレスやブーケの本もよく見るし、面白いフォントやカリグラフィーもチェックします。

 あとは、花が私の大切なモチーフなので、花屋さんで観察することも。花びらは1枚1枚の形が全く違いますが、花はとにかくたくさん作ってきたので、今は初めての花でもどんな技法や型を使えば表現できるか、だいたい分かるようになりました。お客様からブーケの写真を渡されて「こういうイメージのケーキを」と言われると、どれだけ近づけて作れるかなとワクワクします。

「今日もこの後、友人に会いにいきます」と鈴木さん。できるだけオンとオフのめりはりをつけるよう意識している
「今日もこの後、友人に会いにいきます」と鈴木さん。できるだけオンとオフのめりはりをつけるよう意識している

 それから年に1回は、インスピレーションを得るためにニューヨークに行くようにしています。ケーキのコンペティションを見に行ったり、日本では手に入らない新しい道具の買い出しに行ったり。そのためにお金をためようという目標にもなっているんです。

 帰国した当初は、「ケーキデザイナー」と検索しても私の名前しか出てこないくらいでしたが、この数年でケーキデザイナーという職業が少しずつ知られるようになってきたかなと思います。テレビで取り上げていただいたりしたおかげで、ケーキデザイナーを目指す人も出てきました。「ケーキ作りを教えてほしい」という希望もたくさんいただくのですが、なかなか時間がなくて。でも、今度本を出版してレシピを公開することになりました。興味を持ってくださる方に、一つこういう形でお応えできるのはうれしいです。

 自分のためだけに作られたケーキをもらって幸せな気持ちになるのは、どの国の人であっても同じです。オーダーメードでケーキを楽しむ文化が、もっともっと日本に広まればいいなと思います。

聞き手・文/谷口絵美 写真/西田優太

鈴木ありさ(すずき・ありさ)

スペシャルティ・ケーキデザイナー
大学在学中に訪れたアメリカ・ボストンでケーキビジネスの存在を知り、日本でスペシャルティ・ケーキの文化を広める存在になることを決意。2009年にニューヨークのThe Culinary Institute of Americaのペイストリーアーツ学科に入学し、製菓やケーキデコレーションの技術を学ぶ。2年次には国際コンペティションで最優秀賞を獲得。帰国後、「Alisa Suzuki Cakes」を立ち上げ、現在は国内で結婚式やイベント向けにケーキを製作するほか、レシピ開発なども行っている。著書「ALISA SUZUKIのスペシャルティ・ケーキとデコレーション」が7月13日に発売予定