プロポーズ前に依頼されたウエディングケーキ

 2014年に帰国してからは、自分でレシピをいろいろ考え、甘過ぎず、バター控えめで日本人の口に合う味にたどり着きました。

 依頼の中心はウエディングと誕生日、企業のイベントなどです。あとは芸能界の方の誕生日。渡辺直美さんがプロデュースするブランドの広報で友人が働いている縁で、直美さんのバースデーパーティー用にサプライズのケーキを作らせていただいたりもしました。

 毎回のお仕事にたくさんのストーリーがあるのですが、印象的なものの一つが、昨年結婚した中学の同級生のウエディングケーキです。東京から一時期広島に引っ越していたときに1年間同じクラスだっただけなのですが、ずっと関係が続いている数少ない友人の一人です。長く付き合っている彼がいて、まだプロポーズもされていないうちからケーキを作ってほしいと頼まれていました。

 いよいよ結婚することになって打ち合わせをしたのですが、彼女があまりにケーキのことを考え過ぎて、どんなものにしたいのか分からなくなっていたんです。「とりあえず思いつくアイデアを持ってきて」と頼んでいろいろ出してもらったのですが、なかなかまとまらず。

 それでいったんすべて白紙にして、一から考え直すことにしました。彼も交えていろいろ話し合っているうちに、二人を象徴する言葉を入れてはどうかという話になったんです。

 その頃黒板をモチーフにしたケーキがはやっていたので、ケーキの一番下の段を黒板に見立てて、「人生は、親友と一緒の方がもっと楽しい。だから私は私の親友と結婚するの。」という英文を入れることにしました。二人は7、8年くらいの本当に長い付き合いで、けんかもするけれど、仲の良い友人のような関係でもある。これがぴったりだと、わずか1時間のうちに意見が一致して。式の当日、出来上がりにも大満足してくれました。

 日本は結婚式の会場にケーキを持ち込めないことが多いので、ウエディングケーキの依頼の多くは、芯を発泡スチロールで作るフェイクケーキなんです。だからこそ後々まで残ります。結婚して何年かたって、そのケーキを見るたびに「あのときにこういうふうに考えたよね、こんな式だったよね」と思い出せるようなものになってほしい。そう思いながら大切にデザインしています。

聞き手・文/谷口絵美 写真/西田優太

鈴木ありさ(すずき・ありさ)

スペシャルティ・ケーキデザイナー
大学在学中に訪れたアメリカ・ボストンでケーキビジネスの存在を知り、日本でスペシャルティ・ケーキの文化を広める存在になることを決意。2009年にニューヨークのThe Culinary Institute of Americaのペイストリーアーツ学科に入学し、製菓やケーキデコレーションの技術を学ぶ。2年次には国際コンペティションで最優秀賞を獲得。帰国後、「Alisa Suzuki Cakes」を立ち上げ、現在は国内で結婚式やイベント向けにケーキを製作するほか、レシピ開発なども行っている。著書「ALISA SUZUKIのスペシャルティ・ケーキとデコレーション」が7月13日に発売予定