空気を読まずに顔を出す

 私が研修生として取り組んだのは、外から人を呼ぶための観光事業の一環で、サイクリングで町をめぐる事業を具体化すること。私が参加する以前から「自転車を使って何かやってみたい」というお題目はあったのですが、事業計画を立てる人手が足りず、予算やコースなど、具体的なことは何も決まっていない状態でした。

 地元の人たちにも、さまざまな考えがあります。自分たちの町をよくしたいと思うからこそ、意見が分かれることがある。ですが、私はあえて予備知識を入れずにいろんなところに顔を出すことにしました。世間話をしながら、事業の構想を伝えて回る。派閥的なことを意識したら、外から来ている意味がないですからね。

 これは営業目的とか計算とかではなく、自然に出た行動でした。「自分がやりたいこと」だったし、滞在するうちに、人と人との距離が近いこの地域が大好きになっていたんです。

「旅と音楽が好き」だという河野さん。知らない場所で、一個人としてコミュニケーションをとるのが楽しい、と話してくれました
「旅と音楽が好き」だという河野さん。知らない場所で、一個人としてコミュニケーションをとるのが楽しい、と話してくれました

「自分事」にさせたいなら、まず自分が覚悟を決めること

 誰もが歓迎してくれたわけではありません。初めてお会いしたとき、「東京もんがわけの分からないことを言って」と、とても怒った女性がいたんです。それでも何度も通って、最後に挨拶に行ったときに「きついことを言ってごめんね。でもこの場所を思ってくれていることはよく分かっているよ」と目を潤ませながら言ってくれました。

 研修を通して学んだのは、「コミットする姿勢を見せること」の大切さです。最初の頃はコンサルタントの発想で、自分は外の視点を持ち込むけれど実行に移すのは当事者なのだから、いかに地元の人たちに「自分事」だと思ってもらうかが重要なんだと考えていました。でも、最終的に計画を取りまとめられたのは、「私が責任を持ってやります」と言ったからだと思うんです。そこから「河野さんがそこまで言うなら手伝うよ」と言ってくれる人がたくさん現れました。