男女関係なく、すべての人が働きやすくなる職場環境へ

――“女性活躍”という名前がついてはいますが、企業が“働きやすさ”に力を入れることで、男女関係なくすべての人が働きやすくなるかもしれないですね。

小室 そうなんです。掲載する数字は、女性比率だけでなく、もっと本質的な“労働時間”なども(これは努力義務ではありますが)表示項目の一つになったことは大きいですね。制度以上に労働時間こそが働きやすさを左右します。結婚や出産、介護など、さまざまなライフイベントがあっても、それらと両立して働き続けられるかどうかを見極めたいという人が、男女ともに今後ますます増え、こうした数字に注目するでしょう。女性比率や女性管理職比率以外に、労働時間がどれくらいかが分かれば、働きやすさの判断につながるのではないでしょうか。

 働きやすい職場に変わっていくようになることは、今働いているすべての人にとっても、いい職場環境が整うチャンスだと思います。表示することは努力義務ではありますが、サイトを見ていただければ分かるように、自社だけその数値を公表しなければ、イメージは非常に悪くなるので、そうしたプレッシャーが働いて、上場企業はほとんど公表するだろうといわれています。

――“女性管理職の比率”という項目があるので、今後女性が管理職になる機会が増えそうです。何か心がけておくことはあるでしょうか。

小室 企業が“管理職”を育てようと思ったら、女性社員を育成して「従来の管理職像に近づけたい」という発想を持つと思います。ところが従来の管理職というのは、「失敗したら怒鳴る」「プレッシャーを与えて競わせる」という軍隊式・トップダウンの“ティーチング型”がほとんど。また、自分の数字だけを追いかける、分かりやすい結果を出すメンバーだけが評価されがちだったのではないでしょうか。影でみんなを支えて組織に貢献しているメンバーがいても、評価されにくかったと思います。

 ところが、これから成果を出せる管理職像は、ティーチング型ではなく、個々のスキルなどを引き出す“コーチング型”が主流になるといわれています。メンバーが均一のスキルで長時間働いていた時代はティーチング型のマネジメントによる効果はあったのですが、これからはダイバーシティー推進によって多種多様なメンバーが増えていきます。メンバーそれぞれが一番いい形で成果を出すマネジメントが必要になるからです。書店にも、新しいマネージメントスタイルの本がたくさんあるので、広く情報収集をしてほしいですね。

女性特有の“詐欺師症候群”を知っておいてほしい

――大きな仕事を任されたり、管理職に抜擢されたりすると、「自分は自信がない…」という女性も多いようです。

小室 女性特有の特徴と言われる、「詐欺師症候群(Impostor syndrome)」についてお伝えしたいですね。ベストセラーのシェリル・サンドバーグの著書『LEAN IN―女性、仕事、リーダーへの意欲―』(日本経済新聞出版社)にも、以下のように載っています。

<――自分は評価に値する人間だとは思わずに、たいした能力もないのに誉められてしまったと罪悪感を覚え、まるで誉められたことが何かのまちがいのように感じること。十分な実力がありながら理由もなく自信をもてずに悩む症状でImpostor=ペテン師の意味。自分の業績を誉められると、詐欺行為を働いたような気分になり、そのうち化けの皮がはがれるに違いない、などとおもってしまう。女性の方がなりやすく、この症状に束縛されやすい。(実力相応の仕事にもかかわらず、自ら手を挙げないので、上昇志向が無いなどと誤解されやすい。)>

 いかがでしょうか。この“詐欺師症候群”について私自身も大変共感しました。人から褒めていただくたびに「こんなに口ばかり上手くて、中身のない自分が評価されてしまうのが怖い。いつか化けの皮が剥がれて全て失ってしまうのではないか…」という不安を感じていたからです。

 職場で同じくらい成果を上げていても、男性の方が自信があるように見えて、女性は、「自分は努力が足りない」と感じてしまいがちです。それゆえ女性は「上昇志向がない」「謙遜しすぎ」「仕事にやる気がない」と誤解されてしまいます。この詐欺師症候群を理解しておけば、大きな仕事を任されたり、何かに抜擢されたりしたときに、尻ごみすることなく、自信を持って前に進んでいけると思います。

文/西山美紀