一生で稼げる「生涯賃金」にも注目して

 長く働くことは、その間得られる収入の合計額を大きくする効果もあります。一生涯で受け取る給与の合計額のことを「生涯賃金」といいます。働く年数が長ければ長いほど、この金額は大きくなります。内閣府のまとめ(※3)によると、18歳から60歳まで働いた場合、女性の正社員の生涯賃金は約1億7000万円、パートで約5000万円になります。1年間の年収で得られる金額は、一般的にはおよそ100万円から数百万円のレベルですが、働き続けると大きな金額になることが分かります。


 働き続ける中で、特に女性が直面しやすい課題には結婚や出産、育児との両立もあります。内閣府によると(※4)、2010年に子どもを産んだ女性のうち、産後も仕事を続けた割合は45.8%です。働く女性の半数以上が、出産を機に退職しています。子育て世代への支援策は近年充実してきているものの、保育園の待機児童は全国で4万7738人(2016年10月現在)であり、子育て世代の従業員を抱える企業などでの体制整備も、まだ十分でないところもあります。そんな中で子育てをしながら仕事をすることは、多くの女性にとって負担であることが分かります。

※4 平成28年版 少子化社会対策白書「第2部 少子化社会対策の具体的実施状況

 こうした女性のライフイベントがお金に与える影響は小さくありません。内閣府の推計によると、大卒の女性が定年を迎える60歳まで同じ会社で正社員として働く場合、育児休業を取ることでダウンする生涯賃金は、取らなかった場合の約7%だそうです(※5)。これに対して、出産後に退職し、3年後に別の会社に再就職する場合にダウンする生涯賃金は約25%、6年後なら約36%です。さらに、6年後にパートやアルバイトとして再就職する場合には約82%ダウンします。仕事のブランクが長いほど得られる生涯賃金は少なく、正社員よりもパートやアルバイトだと、その差が大きくなるわけです。

 私たち女性が、人生のイベントを経験しながら働き続けるには、日本の労働環境はまだまだ発展途上ではあります。ただ、実際に辞めるか、働き続けるかを考えるときには、こうしたお金の違いも意識した上で考えたいものですね。

※5 内閣府「平成17年国民生活白書 第3章 子育てにかかる費用と時間
28歳に一時退職し第一子を産み、31歳で第二子を産む女性の場合

***

 仕事は楽しいとき、やりがいを感じるときもあれば、苦しいときやうまくいかないときもあるもの。でも、続けていくか、辞めるかを考えるときには、目先のことだけでなく長い目で検討することも大切です。無理をせずに続けられるワークスタイルを築いていけるとよいですね。

文/加藤梨里 イラスト/とげとげ。