キャリアに正解がない不安

 なんとか社会人になってからも、「やりたいこと」を尋ねられることはなく、なんの説明もなく「つべこべ言わず、言われた通りに仕事しろ」などと理不尽なことを言われて戸惑うばかり。「理由や手順を聞きたがる」「失敗を恐れる」ということも、ゆとり世代の特徴といわれますが、福島さんは「終身雇用制度に守られ、じっくり育成してもらう前提の中で、『とりあえずやってみろ』と言われるのなら我慢できると思います。

 ですが、学生時代から『これからは会社に丸抱えしてもらって働ける時代ではない。やりたいことを見つけ、キャリアは自分自身で築きなさい』と教えられてきた僕らとしては、『意義の感じられない仕事はやりたくない』『将来のため、価値ある日々を送りたい』と思うのは当然のことです」

 キャリアは「やりたいこと」をベースに自分で選び取っていくもの――ゆとり世代の転職には、こうした「自律的なキャリア観」が深く関わっている、と福島さんは指摘します。

 「会社に寄りかかるのではなく、自分でキャリアを選び取っていくということは、キャリア選択の成功も失敗も自己責任となります。しかも今の時点では、どのキャリア選択が正解なのかも分からないわけですから、『今のままでいいのだろうか』『失敗したくない』と不安になってしまうのも分かります。こうしたキャリアに対する不安が、ゆとり世代に転職が増えている要因の一つなのではないかと考えています」。次回は、ゆとり世代を転職に駆り立てる不安の正体について考えていきます。

プロフィール
福島創太
福島創太(ふくしま そうた)
教育社会学者。1988年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発などに携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コース修了。現在は、「教育と探求社」で中高生向けのキャリア教育プログラムの開発に携わりながら、同大学院博士課程に在学中。近著に「ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?」(ちくま新書)(プロフィール写真/苅部太郎)

文/井上佐保子 写真/PIXTA