「ええかっこ」する必要なんてないと思えた

――ずっと聞きたかったのですが……、小西さんはどうしてそんなに赤裸々に、自分の失敗やつらかった時期の経験を語れるのですか?

 え? 聞かれるから言うてるだけですよ(笑)。

 うーん、なぜここまで率直に話せるのかという質問ですね。私、「ええかっこ」する必要ないと思えるようになったんだと思います。たまたまテレビに出ているだけで、中身はフツーに働くサラリーマン。資産や美貌や学歴すべて完璧なキラキラした人ってたまにいますが、私はそういう人じゃない。「大した自分じゃないやんか。なんもカッコつけなくていいやん」って、思っているんです。

 でも、ええかっこしようとあがいていた時期はあります。「よく見られたい」という見栄は、弱っている時にこそ顔を出すのかもしれませんね。弱い自分にきちんと向き合って、「自分を変えてみよう」と素直になれた時、見栄もどっかに捨てて来たんでしょうね。今はゆるゆるパンツをはいてるみたいに、ずいぶんラクになりました(笑)。

「今は、ゆるゆるパンツはいているみたいなもんです」
「今は、ゆるゆるパンツはいているみたいなもんです」

――小西さんが40代初めに経験したという長くて暗いトンネルの時期」に得た学びとして、今に生きていることはありますか?

 一番の学びは、「人は必要とされることに喜びを感じる」という実感を得たことですね。

 「必要とされていない」と感じる不安を抱えることがどれだけつらいことか分かったから、一緒に働く仲間への接し方も変わったと思います。

 組織の中で仕事をするということは役割の分担なので、一生懸命頑張っていてもなかなか日の目を見ない人や、成果が数字に見えづらい人もいますよね。そういう仲間を見つけたら、積極的に声を掛けて、「あなたの仕事はこんなに役立っているよ。いてくれて助かっているよ」というメッセージをいろんな形で伝えるようにしています。

――そういった言動が信頼を高めて、長く活躍できる環境づくりにもつながっているのでしょうね。

 自分自身の意思決定の基準も変わりました。

 詳しい話はあらためてしたいと思いますが、結婚後に、私はもう一つ、「討論番組司会への挑戦」という荒波に飲まれます。もうこれは本当に責任が重くて、プレッシャーを感じた仕事でした。

 その後、12年ぶりに記者に復帰し、防衛省を担当させてもらうことになりました。自分としては、「もうキャスター職に戻ることはないだろうな。この場所で頑張っていこう」と決意した道です。記者に戻って5カ月たち、ようやく勉強が追い付き始めて人脈もでき、「さぁこれから」とやる気に燃えていた矢先、またキャスター職にお声がかかったのです。前職の方が番組を卒業することになり、空いたポストにぜひ来てほしいというオファーでした。

 まだ5カ月しかたっていないからと断ることもできました。でも、私は「必要とされること」がどれだけありがたいことか分かっていたので、再びキャスター職に戻ることに決めたんです。「小西さんにぜひ来てほしい」と請われることへの喜びと感謝が、「やりかけた仕事を続けたい」という気持ちを上回ったのです。だから、今は毎日スタジオに立って役割をいただけていることが、うれしくて、とても仕事を楽しめているんです。

 実際、昨年から受け持たせていただいている解説コーナー「ナゼナニっ?」は、私の経験と持ち味をフルに生かせる仕事です。私にしかできない仕事をこれからも見つけていきたいなと思います。

壁を越えたら、もっと強い自分になれる

――「先行きへの不安」というトンネルを乗り越えるため、しておくべき準備はありますか?

 順調な時ほど、謙虚に冷静に将来を見据えて、コツコツと準備をしていったらいいと思います。

 レールが外れた時に「どうしよう」と迷っても遅いし、急な環境変化に対応するだけで精いっぱいになってしまいます。私は本当に準備不足だったために、苦労しました。だから、「順調な時ほど、準備だよ!」と声を大にして伝えたいですね。

 とはいえ、私もこういう逆境の経験をしてよかったと思っているんです。人はつらい経験をするたびに、他人の心に敏感になれると思うし、踏ん張った分だけ体力も筋力もつく。

 越えても越えても、壁は立ち塞がります。でも、またその壁を乗り越えたら、もっと強い自分になれる。また目の前に壁が立ち塞がったとしても、私は自分のことを諦めずに「どう乗り越えようか」と進むことができるはず。心のどこかで、そう信じられるんです。

聞き手・文/宮本恵理子 写真/稲垣純也

【ついに書籍化! 共感の声続々】

「小西美穂の七転び八起き」
2018年9月21日発売
1400円/日経BP社

【書籍概要】「自分にしかできない仕事」をつくる「キャリア論」、声をかけて、仲間の力を引き出す「チーム力」、長くて暗いトンネルを抜け出す「突破力」、気持ちを吐き出して、前を向く習慣の「ノート術」、魅力豊かな女性に生まれ変わる「婚活法」、時には距離と時間が女の友情を育む「友情論」、いつか訪れる親の介護や看病、死別「家族力」――失敗したり、迷ったり、落ち込んだり。それでもへこたれず、笑って前を向く方法を、あますことなく伝授します。

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