「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回のテーマは、映画「いまを生きる」。こんな先生の授業を受けてみたかった!

ときには目線を変えて、物ごとを見てみよう

 規則が厳しい全寮制のアメリカの高校に赴任してきたキーティングは、生徒たちに詩を教えます。ただしそれは普通の教え方ではなく、とても型破りなものでした。詩は理屈じゃないといって教科書を破らせたり、机の上に立たせて物事を違った視点から見ることを教えたり、外で好きなように歩かせて、人と同じ考え方になるのは危険だと教えたり……。

先生の笑顔がまた、いいんです
先生の笑顔がまた、いいんです

 キーティングは生徒たちに一瞬一瞬を大切に、懸命に生きること、つまり伝統や規則に縛られて受動的に生きるのではなく、もっと自由に「今を生きる」ことの意義を伝えようとしたのです。

 生徒たちはキーティングに惹かれ、次第に自由な生き方を見つけていきます。そしてかつてキーティングが作っていたという「デッド・ポエット・ソサエティ(死せる詩人の会)」を復活させるのです。これはこの映画の原題でもあるのですが、生徒たちが森の洞窟で自由に詩を楽しむ秘密のクラブです。

 生徒たちは仲間とのこの自由な活動にも勇気づけられ、それぞれの思いを実現しようとします。思いを寄せる人に告白する者、学校への要求を記事にする者、そして親が反対する演劇の道へと進む者。そこで悲劇が起こります。まず、記事のせいでクラブの存在が危険視され始めます。また、演劇への道を断たれた生徒が自殺してしまいます。

 この一連の悲劇の中で、学校はスケープゴートとしてキーティングをクビにします。生徒たちも強制的に元の厳しい学校生活に引き戻されるのです。しかし、キーティングが去る最後の日、生徒たちは精一杯の抵抗を見せ、校長が制止するにもかかわらず、机の上に立ち、キーティングに感謝と尊敬の念を伝えようとしたのです。

 無力にも元の厳しい生活に引き戻された彼らですが、キーティングの教えは死んでいなかったのです。一度自由に生きることの意義を知った彼らは、拘束の中にも希望を見出し、その中で我慢強く生きづるけることを選んだのです。