「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回のテーマは、映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」。アメリカの歴史も垣間見れます。

人生はチョコレートの箱、開けてみるまで中身は分からない

 「フォレスト・ガンプ/一期一会」の主人公フォレストは、生まれつき知能指数が低かったのですが、持ち前の俊足と純粋な心を生かし、いや、そうした素質に偶然恵まれて、数奇な人生を送ります。

 なんと俊足だけを買われて大学に進学し、アメフトの名選手としてケネディ大統領に表彰までされます。卒業後は軍隊に入りますが、そこでもまた足を使って仲間を救い出し、今度はジョンソン大統領から栄誉勲章をもらいます。そして軍隊で知り合った友人がきっかけでエビ漁のビジネスに成功し、財を成すのです。そのほかにも彼のとった偶然の行動が世の中に大きな影響を及ぼすことになります。そのほとんどがアメリカの歴史に残るような、素晴らしい出来事につながっていきます。

 そんなフォレストにも大きな悩みがありました。それは小学生のころから想いを寄せていたジェニーとどうしても結ばれないことでした。二人は運命に翻弄されながら、出会っては離れ、離れては偶然めぐり合うという行為を繰り返します。運命と偶然の繰り返し。

 この映画には何度か出てくるすごく有名な名言があります。それはフォレストが母親に言われて座右の銘のようにしているこのセリフです。「人生はチョコレートの箱、開けてみるまで中身は分からない」。とても素敵なセリフですよね。まさに人生は前に進んでみないと、何が起こるかわからないというワクワク感が伝わってきます。

 しかし同時に、そこにすでにチョコレートの詰まった箱があるのは事実です。つまり、私たちには開けてみるまで中身はわからないのだけれども、何が入っているかはあらかじめ決まっているわけです。人生に置き換えるなら、それは人生が運命によってあらかじめ決められていることを意味します。運命は決まっているのか、それとも偶然に左右されるのか……。さて、どっちが正しいのでしょう?