アリスが選んだ、自分らしい自由な道

 その不思議な世界の中で、悩みながらも彼女はみんなのために闘う道を選びます。あたかも自分らしく生きる道を選ぶかのように……。日ごろアリスは、母親のためにも、古い慣習の中で決められた人生を歩まざるを得ないと思っていました。でも、どうしても好きでもない男との婚約には踏み切れなかったのです。当時、普通の子なら親に従ったのでしょうが。

 昔から変な夢を見て、人とは違う自分に苦しんできたアリス。幼い頃、そんな彼女を勇気づけてくれていたのは、死んだ父親でした。アリスの父親は、アリスが自分はおかしいんじゃないかと悩むたび、素晴らしい人はみんなそうなのだといって安心させてくれました。つまり、おかしいのは変なことじゃなくて、素晴らしいことなのだと。

 だからこそ、アリスは古い伝統や慣習に染まることなく、自分らしく生きてこれたのでしょう。婚約のパーティーへと向かう馬車の中で、コルセットやソックスを身に付けていないことをとがめられるシーンがありますが、当時の慣習に鑑みると、もうそこからアリスの抵抗が始まっていたわけです。

 婚約の会場から、返事もせずに逃げ出してしまったアリス。でも、逃げ込んだ不思議の国では、決心して闘う道を選びました。そして見事やり遂げ、元の世界へと帰っていきます。そうして今度はきっぱりと求婚を断るのです。不思議の国での経験が、彼女を強くしてくれました。

 いくら慣習があろうと、周囲から変人だと思われようと、彼女は自分らしく生きる道を選んだのです。そうして最後はその姿勢が評価され、彼女はまだ誰もやっていない大仕事に乗り出します。アリスにしかできないことがあると、本人も周囲の人たちも気づいたのでしょう。この物語のポイントはここにあるように思います。そのことをフランスの哲学者ミシェル・フーコーの思想を参照しながら考えてみましょう。

ミシェル=フーコー(1926-1984)。フランスの哲学者。一貫して権力批判の立場から自説を展開した。著書に『狂気の歴史』、『監獄の誕生』等がある。