「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回のテーマは、映画「ハリーポッターと賢者の石」。私は、グリフィンドールに入りたい。

「ハリーポッター」の非日常性と日常性

 誰もが愛するファンタジー小説の新しい古典「ハリーポッター」。小説、映画ともども、どの作品をとっても大人気ですが、とりわけ最初の映画「ハリーポッターと賢者の石」は、コアなファンでなくとも一度は見たことのある有名な作品でしょう。

 主人公のハリーは、両親を失い、ただ意地悪な親戚に育てられるだけのみじめな人間だと思い込んでいました。ところが、なんと魔法の世界では一目置かれる伝説の存在だったのです。そして11歳の誕生日に、魔法の世界から迎えが来て、魔法の学校に通うことになります。

 そこで知ったのは、自分に課された宿命です。いわば魔法の世界におけるエリートの血筋を持つハリーは、それがゆえに天賦の才能を有しており、時に他の生徒や教師たちから疎まれます。同じエリートの生徒からライバル視されたり、教師からもうぬぼれて経験を軽んじていると叱責されたり。

 ただ、ハリーは決して才能にうぬぼれることなどありませんでした。むしろ勇気と友情のために果敢に敵に挑み、どんどん強くなっていくのです。ここがこの物語の痛快な部分でもあります。そしてハリーだけでなく、仲間たちもまた努力によって能力を高めていきます。その意味では、この物語においては、天賦の才能よりもむしろ努力の大切さを説いているようにも思えます。

 実際、仲間のロンは血筋こそよくありませんが、魔法のチェスでは体を張った大事な役割を果たします。そしてヒロインと言ってもいいハーマイオニーは、まさに猛勉強によって知識を得、魔法使いとしての能力を高めていくのです。

 そこで思い出すのは、哲学の世界における大陸合理論とイギリス経験論の対立です。大陸合理論とは、フランスの哲学者デカルトをはじめとするヨーロッパ大陸の哲学者たちの思想を指します。とりわけデカルトの唱えた生得観念が象徴的です。

ルネ・デカルト(1596-1650)。フランスの哲学者・科学者。徹底的に疑うことで物事の本質を探究する「方法的懐疑」という方法論を確立。著書に『方法序説』、『情念論』等がある。