大陸合理論 vs. イギリス経験論
生得観念というのは、人間に生まれつき備わっている知識のことです。デカルトは、人間にはある種の知識が生まれつき備わっていると考えました。これに対して異議を唱えたのが、ロック※をはじめとするイギリスの思想家たちです。ロックは生得観念を否定し、経験こそが心に知を刻み込むのだと主張しました。そこで唱えられたのがタブラ・ラサという概念です。
タブラ・ラサとは、ラテン語で何も書かれていない板という意味です。あるいは白紙の心と言ってもいいでしょう。ロック自身、白紙という表現を用いることもあります。つまり、私たちが経験によって得た知識が、白紙の心に次々と書き込まれていくというイメージです。
大陸合理論とイギリス経験論、どちらが正しいかという明確な答えは出ていませんが、どちらも考えられるのは確かでしょう。
「ハリーポッター」の話に戻ると、ハリーはもともと天賦の才能を持ち備えた魔法使いで、他の生徒たちとは少し異なる存在です。その意味では生得観念を持っているのです。いや、そもそも魔法使いという存在自体、そうでない普通の人間に比べると、生得観念を持った存在だと言えます。
と同時に、ハリーは魔法使いの学校でどんどん知識を得、さまざまな経験を経ることによって、能力をアップさせていきます。その意味ではタブラ・ラサに新しい知識を書き込んでいるのだと言うこともできるでしょう。最初はうまく使いこなせなかった魔法も、正しい呪文を覚え、トレーニングを受けることで、自分の武器にしていくわけです。これはハリーだけでなく、ほかの生徒たちも同じです。ホグワーツ魔法魔術学校は、そんな経験を積むためにあるのですから。