「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回のテーマは、映画「天使にラブ・ソングを…」。学生時代の合唱コンクールは熱くなりました。

みんな、変わるきっかけを探してる

 「天使にラブ・ソングを…」は、何度見ても涙と元気があふれだす名作だといっていいでしょう。マフィアの愛人だったクラブ歌手のデロリスは、ひょんなことから殺人事件を目撃し、マフィアに追われる立場になってしまいます。そこで、警察の手を借りて修道院に身をひそめることになったのです。

 ところが、聖歌隊の指導を始めたことで、修道院や修道女たち、そして自分自身の運命をも変えることになってしまいます。聖歌隊のメンバーたちは、まともな指導を受けたことがなく、当初彼女らの歌はひどいものでした。

 そこに持ち前の明るい性格とずば抜けた音楽センスを持ったデロリスが現れ、奇跡を起こすのです。声を出し過ぎるメンバーにはちょうどいい音が出せるようにアドバイスし、逆に声の出せないメンバーにはお腹から声が出るように指導します。すると、皆見違えるように声が出せるようになっていきます。

 こうして一人ひとりの持てる力を最大限に引き出すことで、デロリスはハーモニーを生み出していったのです。この作品は高校を舞台にした続編も出ていますが、基本的には同じことです。様々な悩みを持つ高校生たちを、次々と合唱のメンバーに変身させていきます。そして最後は感動的なハーモニーを生み出す。

 おそらくデロリスは、周囲の人たちを非本来的な姿から、本来的な姿に変えているのだと思います。誰もがもっと生き生きと、自分らしさを発揮して生きたいと思っている。でも、それは容易なことではありません。それにはきっかけが必要なのです。何もたいしたことではありません。