正義とは「バランス」

 一言でいうと、架空時代の宇宙戦争をテーマにした物語です。そこにジェダイという特別な能力を持った騎士が絡む。中でも、そのうちのある家族にフォーカスが当てられ、時代を超えた彼らの悲しい運命が描かれます。

 これだけ聞くと、「な~んだ善と悪に分かれて戦う話か」とか、「超能力ファミリーの話か」などと思われるかもしれません。しかし、ことはそう簡単ではないのです。ここがスターウォーズの大事なポイントであり、また最大の魅力でもあります。

 まず、善悪に分かれて戦っているように見えるのですが、物語の中では悪が絶対的な悪にはなっていません。その象徴がダース・ベイダーです。悪のヒーローではあるものの、これがまた悲しい運命を背負っており、心の中に善の要素が残っているのです。さらに、物語の中では、善悪よりも再三バランスをとることの意義が語られます。

 これは正義とは何かを考えるとよく分かります。正義とはもともとバランスのことをいうのです。それが欠けた状態が不正義です。けんかをしている二人のうち、どっちが悪いかは、バランスで判断することが多いですね。通常は、一方的に暴力を加えているほうが悪だと認定されます。ところが、形勢が逆転して、今度はやられていたほうが一方的に暴力を加え始めると、正義のありかも変わるのです。だからスターウォーズでも、善悪ではなくバランスが強調されるのです。

 そのバランスをもたらす存在は、ジェダイと呼ばれる騎士たちです。ただ、ジェダイは強いだけの普通の超能力者ではなく、あたかも宗教者のような存在として描かれています。

 ジェダイはテンプルと呼ばれる場所に集い、騎士として修行を積むと同時に、賢者として世の中のバランスを考えます。そして政治の枠組みを超えて独自の判断を行うのです。

 面白いことに、着物のような服を着て刀状のライトセーバーを巧みに振り回す彼らの姿は、まるで日本の侍そのものです。実際、この物語を製作したジョージ・ルーカスは、黒澤明の侍映画にインスピレーションと影響を受けているといいます。

 何より、ジェダイたちが常に口にするフォースという力は、日本的な仏教や神道が想定する自然の大いなる力を彷彿させるものです。こんなふうに論じていると、嫌がうえにも日本の哲学でスターウォーズを斬りたくなってきます。

 たとえば最も有名な日本の哲学者、西田幾多郎の『善の研究』を当てはめてみると、スターウォーズのいわんとすることがよく見えてきます。

西田幾多郎(1870-1945)。日本の哲学者。京都学派を創設。西洋哲学に禅を取り入れて、日本独自の哲学を確立した。著書に『善の研究』、『無の自覚的体系』等がある。

 ちなみに、西田の哲学は禅の影響を強く受けており、奇しくも禅は日本の侍が好んで学んだ思想でもあります。だから余計に、ジェダイと西田哲学がオーバーラップして見えるのです。

 『善の研究』で西田が強調したのは、純粋経験という概念でした。この概念について彼はこういいます。