「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回はアニメ「サザエさん」を哲学。サザエさんはなんと24歳。気付けば年上になっていました。

善き人のためのサザエさん

 前回の記事「ちびまる子ちゃんは大人のための教科書である」では、「ちびまる子ちゃん」は国民の生き方の教科書だと書きましたが、「サザエさん」はその一つ前の時代の「国民の生き方の古典」だといっていいでしょう。サザエさんも同じように古き良き時代の日本の家族関係を描いたものなのですが、原作はちびまる子ちゃんよりもう少し前の話なのです。

 またそれだけでなく、サザエさんの場合は主人公が大人です。しかも子供までいる主婦です。ここがユニークなところです。つまり、主婦であることによって、様々な人間関係が問題になってきます。

 私たちはあの人間模様に自分たちの日常を重ね、時にノスタルジアに浸り、時にあり得たかもしれない仮定法過去完了的な世界に思いを馳せたり、あるいはそれを来るべき理想の世界として思い描くのです。

 年配の人ならノスタルジアを、大人ならあり得た世界への思いを、子供なら未来の世界への理想像をそこに見出すことでしょう。かくいう私もそうでした。子供のころ、あんな家族だったら楽しいだろうなと思ったものです。今自分の家族をできるだけそれに近づけようと努力しているところですが、なかなか現実は…。

 その場合、私はサザエさんです。おっちょこちょいだけど、ムードメーカーでみんなのリーダーなのです。親のことを大切にしながら、自分の親と同居してくれている配偶者をさりげなく気遣う。子育てをし、自分の兄弟たちともいつまでも仲良くし、親戚づきあいまでそつなくこなす。

 当たり前のことのようですが、今の人はなかなかそれができないのです。だから親とも一緒に住めない、配偶者とも喧嘩ばかり、親戚どころか兄弟とも音信不通になるのです。いったい現代人とサザエさんは何が違うのでしょうか?