「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今週も、テーマは大人気TVアニメ「おそ松さん」。笑いって、幸せになる近道なんですよ。

幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ

 哲学の世界には、三大幸福論というのがあります。フランスの哲学者アラン、イギリスの哲学者ラッセル、スイスの哲学者ヒルティの『幸福論』です。いずれも同じように幸福になるための哲学を論じていながら、各々特徴があり、時代を超えて読み継がれています。だから三大幸福論なのです。

 なぜ人々が幸福論を読むかというと、それはやはり幸福になりたいからでしょう。私はいずれの『幸福論』も読んだことがありますが、たしかに読後、ある種の幸福感を得ることができました。そこに書いてあることを実践すれば、おそらくもっと幸福になれるのでしょう。言うは易し行うは難しで、なかなか完璧にというわけにはいきませんが。

 いずれにしても、私も常に幸福になりたいと思って、色々な本を読んだり、映画を観たりしています。そこで最近気づいたのですが、面白いことに「おそ松さん」にも『幸福論』を読むのと同様の効果があるのです。「おそ松さん」を見る人の動機は様々でしょう。でも、あの底抜けに明るい世界観に浸ることで、しばし幸せな気持ちになれるのは事実です。少なくとも私がギャグアニメを見る理由は、そうしたヒーリング効果を求めるからです。

 その意味で、あえて「おそ松さん」の三大幸福論を挙げるなら、「前向き」、「のんびり」、「素直」というキーワードに集約されるように思います。たとえば、仕事が得られなくても、彼女ができなくても、とにかく前向きな6人。ちっともいいことがなくても、なぜか幸せそうに見えるから不思議ですよね。

 また、20歳を過ぎてニートと呼ばれようが、焦らずのんびり人生を謳歌しています。とても幸せそうに。何より彼らは、欲があっても、子供のように素直です。自分だけ得をしても、結局は兄弟に正直に白状し、みんなで分け合う素直さがあります。そんな素直さを分かち合うことに幸せを感じているのです。

 前向きでいることによってもたらされる幸福、のんびり生きることでもたらされる幸福、素直に生きることでもたらされる幸福。実は、奇しくもこれらのキーワードは、哲学の三大幸福論と見事一致しているのです!

 アランはこういっています。

怒りと絶望はまず第一に克服しなければならない敵である。それには信じなければいけない。希望をもたねばならない。そして微笑まねばならない。こうしながら、仕事を続けなければならない。
(アラン『幸福論』)

 つまり、どんなに絶望しても、希望を持って笑顔で生きることが、幸福につながるということです。アランは自分自身のことを不撓不屈の楽観主義者と評していますが、この前向き哲学こそ、彼の幸福論の一番の特徴なのです。

アラン(1868-1951)。本名はエミール・シャルティエ。フランスの哲学者、文筆家。リセ(高等中学校)の哲学教師。長年にわたり新聞にプロポと呼ばれる短文を連載した。その思想は楽観主義と評することができる。