損得だけでは判断できません

 こうしてみると、Dさんにとってマンションの購入は、決して手が出ない買い物ではなさそうです。ですが、それだけで「買ってもいい」と判断するのは早計です。シングルの女性が住宅を買うときには、ほかにも考慮したいポイントがあるからです。それはライフプランの問題です。

 シングルの女性は将来結婚する可能性があります。パートナーの拠点に合わせて住む地域が変わる、子どもが生まれてより広い住まいが必要になるなど、状況が変われば、せっかく買った家には住み続けられません。

 結婚をしなくても、仕事や実家の都合で住む場所を変えざるを得ないかもしれません。住宅を購入して住まいを固定してしまうと、のちに融通が利かなくなるリスクにもなりえます。

 もう一つ考えておきたいのが、シングルの間にローンを抱えるリスクです。今は健康で収入があり、お金のほとんどを自分のために使うことができます。ですが、もし結婚、出産をすれば、自身の収入は大きく減る恐れがあります。家族が増えれば支出も増えます。そのときに、ローンを返済し続けられるのでしょうか。

 また、シングルのうちに住宅ローンを借りてしまっていると、結婚後に家族の住まいを購入しようとしたときに、住宅を売却するなどしなければ夫婦でローンを組むことができません。パートナーの単独名義で借りることになりますから、借入額の審査は夫のみの年収ベースで行われ、借りられる金額は夫婦二人で借りる場合よりも小さくなります。自分のための家が、将来の足かせになるかもしれないわけです。

 つまり、シングルの女性の住宅購入は、損得だけでは判断できません。住宅にかかわるお金の収支だけではなく、転居・結婚・出産など、自分の今後のライフプランも踏まえて検討すべきです。そして、ライフプランが十分に決まっていないシングルのうちに家を買うことで起こるリスクがある、ということは覚悟しておきたいものです。

買うなら「他人でも欲しい」物件を

 それでも自分の家が欲しいなら、買うという選択もありです。ただし、買うなら客観的な視点で選ぶのがおすすめです。客観的な視点で選ぶというのは、自分のこだわりを捨てることです。

 一般的なマイホーム選びでは、自分らしい住まいを追及して、細部までこだわる人が少なくありません。購入した住宅を終の棲家とするならそれでも良いのですが、シングルの女性の場合、ライフプランが変わってその家に住まなくなり、その家を売るか貸すかする可能性が高くなります。

 家の売りやすさ、貸しやすさには、駅近、スーパーやコンビニに近いといった立地条件や、間取りが標準的であるなど、万人受けするかどうかが影響します。もし買うなら、自分がほしいものにこだわるよりは、「他人もこの家を欲しいと思うか?」を基準に、賃貸や売却のしやすさを考えて選ぶとよいでしょう。

 Dさんは、セキュリティにこだわったために家賃の高い部屋に移り住むことになり、そして「家賃がもったいない」と住宅購入を検討しました。しかし話をするうちに、目先のことだけではなく、将来のライフプランを考えることも重要と感じるようになっていきました。結局、今のマンション購入を思いとどまり、一度長い目で自分のライフプランを考え、そのうえで住宅購入について考え直そうという結論に至りました。

 過去のトラウマは、ときとして人の価値観を大きく左右します。でも、それが未来の人生にかかわる判断に極端に影響してしまうと、自分にとって幸せな選択ができなくなってしまう恐れもあります。ときにはこだわりを一度横に置いてみると、人生の選択肢はぐんと広がるかもしれません。

文/加藤梨里 監修/日本FP協会 写真/PIXTA