失敗が多いほど老後は人気者
阿川 さっき言ってた読者の皆さんの不安って、どうなりたくて不安なの?
――「どうなりたい」も含めてぼんやりしているんだと思います。この先仕事をどうしていくか。老後は大丈夫か。結婚はするのか、しないのか。するならどういう人がいいか。ただ相手を探すにしても、どういう方向性で探すべきか見えない、とか……。
阿川 老後!? そんな先のこと心配してるの? 悩みたくなるお気持ちは分かりますが、とりあえず明日までにやんなきゃいけないことがあったら、そんなこと考えてる暇なくなるからなあ。ごめんね、優しくないばあさんで(笑)。
――結婚相手の話でいうと、相手に求める条件がすごく細かい人もいるようです。
阿川 確かに私の友達でも、前もってはっきり条件を決めていた人は結婚が早かったですね。その後の付き合いがないから、いま円満かどうかは知りませんが(笑)。ただ思うのは、もしかして、条件が「狭い」んじゃないのかなって。
――狭い、ですか。
阿川 自分の今の価値観だけで狭い条件を設定してしまう人は、見たこともない世界、やったことのない経験に対して保守的なんじゃないかしら。例えば「私は朝コーヒーを飲まないことにしてるんです」って言う人がいるけど、いやいや一度飲んでみてよって。「私、海外旅行しない人なんです」……いやいや一回行ってみてよって。違う世界が広がるかもしれないから。自分の型を安全パイだけで作り過ぎ。あなたは一生、ずっとカプセルみたいなものに入っていたいのかって。
――阿川さんも、27歳の時に舞い込んだリポーターの仕事は突然の話で、それまでとは全く違う世界に飛び込んだんですよね。
阿川 いやだいやだと言いながらやってみて、続けてたら仕事になっちゃった。それまでは織物職人になりたくて修業してましたから。
――人生、計画通りにはいかなかった。
阿川 織物職人は好きだったけど、失敗でした。でもね、老後が心配だとか言うなら、死なない程度の失敗をたくさんしておいたほうが、老後は確実に人気者になります。他人の成功談なんて聞きたくないでしょ。佐藤愛子さんだって本当につらい人生を送ってこられたと思いますけど、あんなに本(「九十歳。何がめでたい」小学館)がめちゃくちゃ売れてる。
――失敗したとしても後からおいしいんだから、とりあえず何でもやってみればいい、ということですね。
阿川 そりゃ、私がこの年からプリマドンナやオリンピック選手にチャレンジするのは無理だけど、たいがいのことはできますからね。デヴィ夫人なんて、あのお年でイルカにも乗るんだから。「あたくしね、挑戦することが好きなの」って……。本当に尊敬しますよ。何事も遅すぎることはないし、間に合わなかったらその時に考えればいい。私は20歳の時、30歳なんておばさんだと思ってたけど、60歳過ぎたら30歳、40歳はまだまだ若い。あなたたち(読者)は、すっごく若い。
だからね、若いうちは不安でも、今から達観なんてしなくていいと思う。達観しちゃったらそれこそ視野が狭くなるから、そのまま不安に思っていればいい。不安も不幸も楽しむ、笑う、喜ぶ。「どうやったら笑い話になるかな、この不幸」くらいでちょうどいいんですよ。
文/稲田豊史 写真/毎日放送
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