「ゲーム化」して面白がりながらトレーニングする

 「新人が電話を取るのが遅い」という悩みの背景には、新入社員の世代が電話を取り慣れていないという「スキルの問題」があります。最近は固定電話を置かない人も多いので、携帯に着信があるのは緊急事態か不審な電話のどちらか、というイメージが強い。防犯意識として、若い人ほど安易に電話に出ないというマインドセットがあるんです。

 そこでいきなり「電話に出て」と言われても、取り慣れていないのだから抵抗があります。その背景を理解した上で、トレーニングしていくことが大切です。例えば、ゲーム化して相手の楽しさに寄り添うという方法があります。電話なら、「新人が2コール以内に電話を取れたらあめをもらえる」など。子どもじみた取り組みに感じるかもしれませんが、ゲーム化してしまうことでお互い深刻になり過ぎずに済みますし、ゲーム感覚で必要な業務が体得できれば、両者にとってプラスです。

 私は以前、会社でヘルプデスクのリーダーをしていたことがありました。そのときに、お客様からの問い合わせへの対応回数をRPG(ロールプレイングゲーム)になぞらえてゲーム化し、減らしていったんです。

仲間と協力してダンジョンを攻略する! その感覚で仕事をしてみると…… (C) PIXTA
仲間と協力してダンジョンを攻略する! その感覚で仕事をしてみると…… (C) PIXTA

 RPGでは、自分の行動回数を「1ターン」「2ターン」と数えます。それを電話での対応回数に当てはめました。問い合わせが来た電話ですぐに答えられたら「1ターン」、折り返し電話をする必要が生じたら「2ターン」という具合です。

 共通認識ができたところで、「この手の問い合わせは1ターンで倒せるようになろう!」などの目標を掲げました。すると、うまくいったときに「1ターンでできました!」とメンバーが喜ぶんです。1ターンで問い合わせに答えられることは、電話をしてきたお客様にとってもすぐに回答が分かりうれしいことなので、全員にとっていい結果となりました。

指導する側もゲーム感覚を持ってみる

 ゲーム化には、「こういう問いかけをすると、相手が困っているポイントに気付くから1ターンで返せるよ」など、チーム内のノウハウが共有しやすくなるというメリットもあります。

 同じ問い合わせへの対応でも、「1ターンで倒せるようになるにはどうしたらいいだろう?」と考えるとワクワク感が増しますし、ゲームならではの成長感や達成感がありますよね。共通認識のある別世界のワードを使うことで、一体感の醸成も早くなります。特に若手が多いチームだと、こうしたゲーム化は人気がありますね。題材は、巻き込みたい相手の好きなものに合わせて選んでください。

 さらに、教える側も遊び心を持って、成長実感を味わえるようにするといいと思います。新人が指示通りに仕事を仕上げられたら「レベル1」、言われなくても計画表を出すようになったら「レベル3」とするなど、新人育成のステップをゲーム化してしまうんです。新人の成長が自分の達成感につながったら、あなた自身のマネジメントスキルが伸びている証しです。

聞き手・文/飯田樹 写真/PIXTA

<この人に聞きました>
沢渡あまね
沢渡あまね(さわたり・あまね)さん
業務改善・オフィスコミュニケーション改善士・あまねキャリア工房代表。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行う。さまざまな企業で「働き方見直しプロジェクト」「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」などのファシリテーター・アドバイザーを務めている。著書に「仕事の問題地図」(技術評論社)、「働く人改革」(インプレス)他多数。