「生きている限り仕事するのが当たり前」という価値観

  2002年、毎日新聞紙上で『毎日かあさん』の連載が始まったことで、西原さんに転機が訪れます。西原さん夫婦と2人の子供の日常をエッセイ風に綴ったこの作品で、西原さんは前夫のアルコール依存症、離婚、復縁、そして闘病と死別に至るまでを、包み隠すことなく描きました。『毎日かあさん』をきっかけに、これまで西原さんの漫画に触れる機会が少なかった女性ファンが急増。単行本の発行部数はシリーズ累計で230万部以上に上り、2009年にはアニメ、2011年は実写映画と、映像化も相次ぎました。

 西原さんは、なぜ身の回りに起きた悲しい出来事を描き続けたのでしょうか。担当編集者の八巻さんは西原さんについて「お金に苦労した幼少期のこともあってか、生きている限りは仕事をして自立するのが当たり前と考えている人。だから、辛く苦しい時期でも描き続けていたのでしょう」と解説します。

 悲しみや苦しみと向き合いながら、ひたすら描き続けた西原さん。漫画から溢れ出る西原さんの生の感情が、読者の心を強く打ったのでしょう。

 八巻さんは、こう続けます。

 「西原さんはとにかくサービス精神が旺盛で、サイン会でファンに頼まれれば必ずツーショットを撮る。また、無頼派と見せかけて締切は基本的に守るし、少しでも遅れる場合は必ず連絡をくれる。仕事への意識がとても高い人です」。

 西原さんが持つ「不幸を笑いに変える力」。それは、絵で食べて行きたいという若き日の決意、そして漫画を描くことが自分の仕事であるという矜持によって培われてきたものかもしれません。

文/樋口可奈子、写真/PIXTA

Profile
樋口可奈子
母娘問題研究家
1980年生まれのライター。南野陽子をきっかけに6歳でアイドルに目覚め、歌って踊れる系から「VERY」モデルまで幅広くチェックしている。最近気になるのは中条あやみとNegicco。