知らないと損する「お金の新しい常識やお金を増やすヒント」について、AFPで消費生活アドバイザーの山崎俊輔さんが、新刊の発売を記念して、日経ウーマンオンラインに特別寄稿する3回連載の最終回。今回は、老後の備えとしての公的年金の役割について考えます。
老後へのお金の備えほど、「早く教えておいてくれよ!」と後で叫ぶことになるものはありません。老後のお金の問題は、働いている現役時代にしか対応することができません。60歳になってお金が足りないことに気付いても、65歳までの継続雇用では基本的に賃金が下がるため、貯蓄する余力がありません。65歳以降も公的年金収入は目の前の生活費ですから、貯蓄する余裕はもうありません。
そうです。この文章を目にした「今日から定年退職の日まで」の期間しか、老後のお金を準備するチャンスはないのです。
既に老後に備えて貯蓄に励んだり、金融商品に投資している人もいると思いますが、今回はいろいろと誤解されていることも多い「公的年金」について、正しく理解していただきたいと思います。
年金の正しい理解は「潰れないが減ることは減る」
公的年金制度については、「年金破綻」がしばしばささやかれます。一時期は雑誌やテレビ、新聞などで、さも破綻間近のように特集が組まれたものです。
しかし、最近は破綻特集を見かけなくなったと思いませんか。実は理由があって、厚生労働省が徹底的なシミュレーションと情報開示をしたところ、まともな学者は破綻を指摘するコメントを出せなくなってしまったのです。
難しい詳細は省きますが、現在の保険料と給付の設計、人口動態を踏まえてシミュレーションをすれば、破綻、つまり支払い不能になる可能性はほとんどないことが明らかになっています。
年金積立金についても、短期的に株価が下がると「このままでは底をつく」と話題になりますが、100兆円以上の年金積立金を有するのは日本とアメリカくらいであることはほとんど知られていません。日本の年金積立金は世界が羨むレベルなのです。しかも中長期的にはプラスの運用成績で、残高を増やすことに成功しています。実はありえない破綻のことばかり騒ぎ立てるような議論は、もう卒業すべきなのです。では、何が正しい理解かというと、
「潰れはしない。しかし減ることは減る」
です。
まず、物価の上昇の伸びに見合うほどには、年金の受給額(受け取る額)は増えないように調整されることが予定されています。また、現在1966年4月2日以降生まれの女性は65歳で受給開始ですが、将来的には受給開始年齢の引き上げも行われるかもしれません。
破たんはしないとして、もらえる年金の額がどのくらいか、イメージできますか? ざっくり「最小限の衣食住の費用はなんとか足りる」と考えるとちょうどいいと思います。しかし「趣味や生きがい、交際費用は国の年金では足りない」というレベルだと考えておきましょう。