2015年、結婚11年目のことだ。友人の誕生日をお祝いするために、夫婦でメキシコに行くことになった。息子と娘は、私の両親にカリフォルニアの自宅で見てもらうことにした。金曜の午後、デーブとプールサイドでのんびりしながら、iPadで「カタンの開拓者たち」を対戦していた。まさかの展開で、私が勝ちそうだった……なのに、まぶたが閉じてくる。猛烈な睡魔のせいで勝利をものにできないとわかると、「眠くてたまらない」と、私はその場に丸くなった。午後3時41分にだれかが撮ったスナップ写真が残っている。iPadをもったデーブ、そして手前の床のクッションで眠りこけている私。デーブはニコニコ笑っていた。

 1時間以上経ってから目を覚ますと、デーブはもうそこにいなかった。ジムに行くといっていたのを思い出し、私はみんなとひと泳ぎしに行った。シャワーを浴びに部屋に戻ったときもデーブはいなかったが、とくに気にとめたわけではない。夕食のための着替えをすませ、子どもたちに電話をかけた。しばらくしてみんなのいる海辺まで歩いて行ったが、そこにもデーブの姿が見えないと、パニックの波に襲われた。何かよくないことが起こっている。「デーブがいないの」と、デーブの弟のロブと奥さんのレスリーに向かって叫んだ。レスリーは一瞬黙り、それから叫び返した。「ジムはどこ?」。近くの階段を指さすと、みんないっせいに駆け出した。

 デーブは床に倒れていた。トレーニングマシンのそばに横たわり、顔は青ざめて左を向いていた。みんな悲鳴をあげた。私はとっさに心臓マッサージを始めた。ロブが私に代わり、駆けつけたドクターがロブに代わった。

 救急車で病院に向かうときほど、人生で長く感じた30分間はない。やっと病院に到着すると、デーブは重い木のとびらの向こう側に運ばれ、私はそこで足止めされた。永遠とも思える時間が過ぎてから、小部屋に通された。ドクターが入ってきてデスクに着くのを見て、すべてを察した。