いつまでも親に機嫌を取ってもらえると思ってはダメ

編集部:「キレる老人」ではないですが、「年を取って丸くなる人もいるが、うちの場合は父親が年々頑固になっていると感じる」という話もよく聞きます。

スー:うーん。自発的に年々頑固になるというようなことはない気がします。理解してくれる人が減ったからでは? 分かってほしいのに分かってもらえないとか、当たり前にできていたことができなくなってきたり、社会において尊重されていないと感じたり。頑固になるのは何かしらの理由があるはず。

 例えば、母親や父親が誰かに「ウチの娘は本当に無愛想で」と言っていたとしても、全くなんの理由もなく、突然無愛想になったわけではないと言いたいですよね。無愛想になったのにはそれなりの理由があるわけですし、それと同じだと思います。「ウチの娘、なんでああなっちゃったのかしら」なんて言われても、その理由を考えてくれないと。

編集部:自分の話で恐縮ですが、少し前に実家に帰った時に、父がいつもより不機嫌な様子だったんです。普段は孫をかわいがってくれるのに、その時はちょっと冷たく接しているように見えて勝手に傷ついていたのですが、後で母に聞いたらその時、少し体調が優れなかったらしくて。「ああ、私ったら、理由も知らずに……」と反省しました。

スー:そこに娘の甘えがあって、遊びに行ったら必ず歓待してくれると考えているし、それが親の満点の態度と思っているんですよね。人にジャッジされるのは嫌いなくせに、親のことは平気でジャッジしてしまったり。

編集部:そうですね。「おかえり」なんて笑顔で出迎えてもらえなくても、勝手に悲しんではいけない。

スー:そうそう、親だって笑顔になれないことはあるでしょう。「いつまでも親に機嫌を取ってもらえると思うなよ」ということは、読者の皆さんにもお伝えしたいですね。

親に対してわだかまりがあるのなら、全部ぶちまけたほうがいい

編集部:親とのコミュニケーションに悩んでいる読者は非常に多いです。「結婚は?」とか「孫の顔を見せないのは親不孝だ」と言われたり。親を傷つけたくないから言い返せなかったり、年に数回の帰省の間だけのガマンと思ってモヤモヤを押し込めてしまう人も少なくないと思います。

スー:そういう場合は、一度は全部壊すつもりでぶちまけたほうがいいと思います。言ったら全部壊れてしまうと思っているかもしれないけれど、「別に壊れてもいいじゃん!」くらいの心意気で。だって、言わないと何も伝わらないんですよ。私も父と大げんかになったときにそういう状況になったことがありますが、意外と時間がたつとお互い忘れちゃったりしますし。わだかまっているものがあるのなら、全部表に出したほうが自分のためにもいいと思いますけどね。

 親子だから何をやっても大丈夫ということはないと思います。すぐ逃げ出したほうがいいようなひどい親だってたくさんいますし、「血がつながっているから分かり合える」というのは幻想なんじゃないかと。だから「口にはしないけれど分かってほしい」とウジウジ悩むのはそろそろやめたほうがいいと思います。もう大人なんだから。

編集部:よく「夫婦は他人」と言いますよね。でも親子も……

 親子だって他人ですよ。別々の個人ですから。ただ、非常に長いスパンでの、持ちつ持たれつみたいな関係だとは思います。だから、お互いの関係が一度壊れても、もしかしたら新しい形で再構築できるかもしれないという希望が持てるのではないでしょうか。

聞き手・文/樋口可奈子

ジェーン・スー

コラムニスト/ラジオパーソナリティー/作詞家
音楽クリエイター集団agehaspringsでのプロデュースや作詞家としての活動に加え、自意識をこじらせた大人たちへのパンチラインが話題を呼び、2013年10月「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」(ポプラ社)を出版。2作目の「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)が第31回講談社エッセイ賞を受賞。
2016年4月よりTBSラジオ番組「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~金11:00~13:00)でパーソナリティーも務める。

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著者:ジェーン・スー
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