聞いてみて分かった「父の意固地」の理由

編集部:母と娘の関係は近年クローズアップされていますが、父と娘の関係はなかなか話題に上りません。

スー:父親が家庭の中で「不在」だったりして、接点がないから関係がきつくなるところまでいかないんでしょうね。

 できれば、親がうんと年を取る前にきちんとコミュニケーションを取っておいたほうがいいと思います。私もこれまで父のことを意固地な人だと思っていたのですが、ちゃんと話を聞いてみると「なるほど、こういう考えに至る理由が彼の中にはあったんだ」と分かったことがたくさんありました。そういうのって、パズルのピースをはめていくようで楽しいんですよ。

編集部:スーさんが友人の家に泊まった時に、相手の家が火事になったらどうするんだと心配して、夜中にタクシーで帰ってこさせられたというエピソードがありましたね。

スー:戦争で二度も家が焼けていれば、それは火事が心配にもなりますよね。昔はただの心配性だと思っていたんですけど。他にも、父は賞味期限に非常に厳しいし、屋台のものを食べないし、神経質な人だなと思っていたのですが、話を聞いてみたら幼少期から食中毒をやったり結核になったりとたくさん病気をしてきたので、衛生面に気を配ることは父なりの予防法、健康法のようなものだったんですよね。「生のカキを食べない」とか「食べ物にはよく火を通す」とか。そういう話を知ると、単なる意固地でやっていたことじゃなかったんだなって。

 でも、「なんで○○しなくなったの」「何がきっかけでそんなに心配性になったの?」とストレートに聞いても本人もなかなか説明できないと思うので、関係ない話をいろいろと聞きながら自分で探り当てるのが楽しいと思いますよ。

編集部:男女の差もあるのでしょうか。母親だったら「お母さんはこういう理由でこれが嫌いなの」と説明してくれそうな気がします。

スー:あくまでわが家の場合ですが、母親はすべての面で「教育」という視点で私に接していたような気がします。どういう言い方なら子どもに理解させられるのかと。でも父親はその視点で娘に接することができなかったので、私もなかなか父親のことが分からなかったのではないかと思います。

父の日のプレゼントは「二人で食事」を

編集部:「父親のことを分からないし、知らない」というのは父の日のプレゼント選びにも表れるのではないかと思います。母親だったら何が好きかも分かるし、想像もつく。でも、父親が何が好きなのかは全然分からないと悩む人は多そうです。

スー:父も娘も、お互いのことを知らないんですよね。父の日のプレゼントとして、「絶対にキレない!」と自分に誓って、父親と二人きりで食事に行ってみるのもおすすめですよ。今は全く問題ありませんが、わが家も母親が生きているうちは父と二人きりで食事なんて無理でした。でも、実は話すことってたくさんあるんですよ、仲良くなれば。

 二人でご飯を食べに行って話が続かないとかキツいのは、父親のせいだけではないと思うんです。父親が無愛想だから、頑固だから関係がうまくいかないと相手のせいにするのは、娘の傲慢だと思います。父親を喜ばせようとしなくたっていいんです。話を聞くだけでも十分。例えば学生の時にどんな勉強が好きだったか、初恋はどうだったか。母親にだったら聞けそうなエピソードを父親に聞いてみるのもいいと思いますよ。

 そこで相手が父親らしく「結婚はどうするんだ」なんて聞いてきても、そこでキレずに、「まあまあ、今日は『親っぽい』感じじゃない話を聞かせてよ」と。友達のお父さんだと思って一回接してみるといいんじゃないでしょうか。

編集部:それはいいですね! 自分の父親だと思うと、ちょっとカチンときちゃうような会話でも……。

スー:友達のお父さんだったらどう対応するか、ですね。

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 次回は、父との関係に悩む人に向けてのアドバイスを伺います。

聞き手・文/樋口可奈子

ジェーン・スー

コラムニスト/ラジオパーソナリティー/作詞家
音楽クリエイター集団agehaspringsでのプロデュースや作詞家としての活動に加え、自意識をこじらせた大人たちへのパンチラインが話題を呼び、2013年10月「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」(ポプラ社)を出版。2作目の「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)が第31回講談社エッセイ賞を受賞。
2016年4月よりTBSラジオ番組「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~金11:00~13:00)でパーソナリティーも務める。

「生きるとか死ぬとか父親とか」
著者:ジェーン・スー
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